テレビ朝日ドラマプレミアム『黄金の刻〜服部金太郎物語~』において、「東洋の時計王」と呼ばれた主人公・服部金太郎その人の青年期を演じた水上恒司。インタビュー後編では、注目俳優の仕事に対する向き合い方などを掘り下げた。#前編 ■連載「NEXT GENERATIONS」とは
“楽しい≠気楽に”。水上流の楽しむための覚悟
前編の話からも、役柄に対しても真摯に向き合い、作品や役柄に応じた演技プランを練り上げる。仕事に対するひたむきさが滲み出る水上恒司。
客観的に自分を見ているからこそ、向き合えるようにも思える彼の「俳優」という仕事について聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「僕、今年に入って改めて、現時点での自分の夢や実現したいこと、を整理してみたんです。少し時間があったので。そうしたら、今僕がこの芸能界でやりたいと思えることって、なかったんです」
弱冠25歳にして、大きなアワードも受賞し、朝ドラでも活躍。さぞかし意欲的で野心的な何かを期待していたなかで、思わぬ回答だった。
「こんな番組に出たい、とか、ハリウッドに進出したいとか、そういった類の欲望は本当になくて。じゃあ、なんでこの世界に僕はいるのか。
それを突き詰めていくと、結局『お芝居が楽しい』ってところに辿り着いたんです。自分じゃない人間になっていく、かりそめにその人生を歩む時間がとっても楽しいんだなと。
ドーパミンでしたっけ。そんなものが出ているような気持ちがあります。ひとつの作品を作り上げたときの快感は、ほかに勝るものはないんですよね」
「役者中毒」という言葉を時として耳にするが、水上もまさにそんな中毒者のひとりなのかもしれない。だからといって、その海に溺れていない目線を持っているのも彼らしい。
「大層なことを言っているのかもしれませんが、僕ら若手の俳優は、役者の先輩たちが築き上げてきた情熱や技術みたいなものを次に繋げていく。それはある意味で義務のようにも感じているんです。役者としての生き方というか。それを信念というなら、そうかもしれません」
ここまでの話から感じる、真摯な姿勢は、まさにこの信念があればこそ、という気がしてくる。
「自分は、生き方も演じ方も不器用なほうかもしれません。新しいものを吸収するのにも、その咀嚼には時間がかかるほう。『最後は楽しんだもん勝ち』という言葉がありますが、最後に楽しめるようになるには、ゴールに行き着くまでの過ごし方、その過程で決まると僕は思っていて。それによって、『最後に楽しむ』の意味も、価値も変わるんじゃないかなと。だから、“楽しむ=気楽に”ではないんです、僕の場合は」
こうした水上の言葉からは、“楽しむためには、苦しみもする”という覚悟も感じられる。
「楽しいだけでいいのかな、と思うんです。本当はそうじゃない。求められる演技に対して、努力して、負荷をかけて、というのが当たり前だと思っているので、常に、自分には、“その演技はできているのか、できていないのか”という部分に疑いの目を向けています」
アスリートのようにストイックに映る水上の姿勢。若手と言われた彼も今や25歳を迎え、数々の作品で成熟した男性としての確かな存在感を見せている。
作品では「演劇部」の一員として
自身を客観的に見つめながら、人を魅了する演技でスターダムへの道を駆け上がっている水上恒司。
高校を卒業して間もなかったデビュー作の頃とは大きく印象が変わった。時には先輩としての振る舞いも見せることもある年齢となっているが、現場での振る舞いはどのようなものだろうか。
「これまでは、若手ということもあって、多くの先輩俳優のなかに入っていって、ということが常でした。けど、だんだんと後輩も入ってくる。とある現場で、僕のことを慕ってくれる後輩がいたんですけど、ちょっと戸惑ってしまいました(笑)。
人間関係って、時と場合によりますけど、改めて立場によって異なるんだなと思いますね。下の子から慕われたときに、自然と先輩感が引き出されるというか、そういう自覚も芽生えるというか」
これまでの半生を振り返ってみても、班長や学級委員、キャプテンや団長といった「まとめ役」に指名されることが多かったという。
「きっと自分なりの、その立場ならではの言葉を発せられるからだと思います。ある意味で、大人からしても都合の良い存在だったのかもしれません。“こいつを使えば、みんなをまとめてくれるな”というような。
でも実際は、人の上に立つことはまったく得意じゃないです。これまでもリーダーだから、というような感じで気張ったこともないかな。それでも自分として乗り切れてきたのは、“リーダーを演じたから”かもしれません。そういう意味で“演じる”ほうがうまくいくのは、肌で感じていたのかもしれないです」
だからといって、四六時中張り詰めているわけでもないという。オフタイムを充実させるのは、家族とすごすプライベートな時間だ。
「自分のなかでは、オンとオフを切り離す感覚はなくて。プライベートな部分も演技を通して透けて見えてしまうのも、俳優の性分だと思いますから」
そんな水上にとっての仕事とは? 定型的な質問を投げてみる。
「ないと困るもの、ですかね。仕事をしないと、資本主義社会では生きていけなくなってしまいますし(笑)。もちろん、仕事があるがゆえに、システムにむしばまれていくような気もしますけど。僕は、働いていないとダメになってしまう。
仕事=ネガティブと思っている人には、理解してもらえないかも知れませんけど、この仕事に出合えたから、人生が豊かになっているとも思います。そういう点は、仕事の魅力かなと」
ゲーテが掲げる「仕事が愉しければ、人生も楽しい」。これを地で行く水上の姿勢に、シンパシーを感じ、この若き英傑(えいけつ)に勇気づけられる人も少なくないはずだ。
最後に作品への思いを言葉にまとめてくれた。
「現代は簡単に時間が知れる時代。そのことに疑問さえ持たない時代だと思います。だからこそ、『時間ってなんだろう?』という視点で、そこに情熱をもって魅了されていく金太郎の姿に何かを感じていただけると思います。
僕は金太郎の青年期を演じさせていただきますが、キラキラした眼差しで時計と、時間と向き合っていますので、ぜひ楽しみにご覧下さい!」
水上恒司。この先がますます楽しみな俳優のひとりだ。
■連載「NEXT GENERATIONS」とは
新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載。毎回、さまざまな業界で活躍する10〜20代の“若手”に、現在の職業にいたった経緯や、今取り組んでいる仕事について、これからの展望などを聞き、それぞれが持つ独自の“仕事論”を紹介する。