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2023.07.12

マーベル作品の生みの親も絶賛。一流のグラフィックデザイナーは、いかにAIと共存するのか? 

漫画やアニメの作者から2次創作を認められるダブルライセンスという権利を得て、ハイクオリティなアート作品を発表してきたマサヤ・イチ。彼が率いるクリエイター集団「ANIMAREAL」は“向かうところ敵なし”の状態に思えたが、グラフィックアート界に新しい波が訪れた。画像生成AIの登場である。マサヤ・イチはAIにどう向き合うのか。そしてグラフィックデザインの現場はどのように変わっていくのか。 #前編 / ANIMAREAL作品はコチラ

ANIMAREALのマサヤ・イチ

デザイナーはAIに仕事を奪われるのか?

『クローズ』『るろうに剣心』『刃牙』など日本の漫画・アニメから、『X-MEN』『トランスフォーマー』といった海外モノまで、多彩なアート作品を手がけるANIMAREAL。新次元のリアル感で表現するそれらの作品は、マーベル・ヒーローの生みの親であるスタン・リーも絶賛するほどだ。
【ANIMAREALマサヤ・イチの作品を一挙公開! こちらから!】

そんなANIMAREALのアート作品は、基本的にアプリケーションソフトPhotoshopを駆使し、マットペイントという技法でつくられている。カメラマンが撮影した画像、あるいはフォトライブラリーなどから購入した画像をベースに、3DCGの技術を織り交ぜながら、さまざまな要素をPhotoshopで合成していく。どこからどこまでが画像をベースにしているかは、作品によって異なる。ほぼ100%写真が元になっていることもあれば、すべてを無から描き上げることもある。

「学生時代にPhotoshopに出合い、一気にのめりこみました。今も作業の中心になっているのはPhotoshop。これからもずっとPhotoshopを使っていくと思いますが、以前と違うのはそこにAIの技術が入り始めていることです」

ANIMAREALは週刊文春シネマ特別号「X-MEN」シリーズ最強ガイドブック『X-MEN:ダーク・フェニックス』特集のグラビアビジュアルの制作現場

2019年、ANIMAREALは週刊文春シネマ特別号「X-MEN」シリーズ最強ガイドブック『X-MEN:ダーク・フェニックス』特集のグラビアビジュアルを手がけた。モデルは有名コスプレイヤー「えなこ」。その制作にあたっての撮影の風景。写真提供/ANIMAREAL

ANIMAREALは週刊文春シネマ特別号「X-MEN」シリーズ最強ガイドブック『X-MEN:ダーク・フェニックス』特集のグラビアビジュアル

こちらが、『X-MEN:ダーク・フェニックス』特集のグラビアビジュアル。当時はまだ、画像生成AIを活用することはなく、モデルの撮影を行い、その画像をベースにPhotoshopでアレンジを施していった。 ©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation ©️ANIMAREAL / ICHI

近年、AIを活用する業種が急速に増えている。金融業、製造業、サービス業、流通業……。人間のかわりに仕事を行ってくれるといえば聞こえはいいが、それまで働いていた人から仕事を奪い、失業者が増えるのではないかという声も聞こえてくる。

「グラフィックデザイン業界も同じですよ。デザイナーがPhotoshopを駆使してコツコツとやっていた仕事を、AIに奪われるんじゃないかと。AIに対して『何か変なヤツが家の前をうろついているぞ』って感じで、デザイナーはみんな警戒したり、見て見ぬ振りをしたりしています。

特に僕は、特殊なグラフィックデザイナーです。ビジュアル制作が専門なんです。平たく言えば“画像制作”ですね。自分の専門分野こそ、画像生成AIに取って代わられるのではないか。1年前から『何か変なヤツが家の前をうろついているぞ』くらいでは済まず、『もうすでに布団の中にまで入ってきているぞ』って感覚でAIを見ていました」

AIに対して、誰よりも強い危機感を抱いたマサヤ・イチ。AIに目をそむけてはいられない。いち早く敏感に対処しなければいけないという意識が高まった。

「まずは、AIを使ってみようと。で、使ってみたら、これは触れば触るほどヤバイと感じました。今はまだ人間が使うツールのひとつだけど、近いうちに人間を超えるかもしれない。それだけ、つくり出すモノの精度が高いんです。

僕はいくつかある画像生成AIソフトのうちMidjourneyをメインに使っていますが、たとえば『少年が戦場をテディベアと一緒に歩いているシーン』と英語で打ち込むと、あっという間に画像が出来上がる。

しかも単に画像を出すのではなく、絵心というかセンスを持って画像を生成してくる。僕だったら、手作業でAI以上のレベルのビジュアルを制作できるんですけど、平均的なグラフィックデザイナーだったら、負けてしまうんじゃないでしょうか」

画像生成AIで作成した画像

「少年が戦場をテディベアと一緒に歩いているシーン」というプロンプト(指示)を元に、AIが実際に生成した画像。写真提供/ANIMAREAL

ANIMAREALのマサヤ・イチ

Masaya Ichi
3歳から絵画を始め、6歳で油画の道へ。京都造形芸術大学に進学し、卒業後は「LONDON Central Saint Martins 」に留学。在学中にMacに触れて以来 Photoshopにのめりこむ。現在はアートディレクション・グラフィックデザインを中心に活動する他に、アートプロジェクト「ANIMAREAL」にて漫画やアニメを題材とした公式アートを制作し、多くの雑誌表紙を飾る。現在は画像生成AI を研究しグラフィック技術との融合に没頭。クリエイターとしてUUUMに所属。著書に、アートブック『ART of ANIMAREAL』、『クローズ生誕30周年記念写真集 武装戦線 THE REAL』。

Photoshopと画像生成AIを融合させる

AIがつくる画像の精度に驚愕したマサヤ・イチ。だが、AIを使い続けていくと、危機感は次第に薄れていったという。

「AIは人間の敵ではなく、クリエイティブを助けてくれる存在なんじゃないかと感じるようになりました。センスもある、アイデアもある、やる気もある、でも技術がなくてクリエイターになれなかった人が、AIの普及によって自分の表現ができるようになる。僕のような画像制作というピンポイントで仕事をやっている人は仕事が減るかもしれないが、社会全体にとってはいいことだろうという気になってきたんです」

技術力の低さをカバーできるようになれば、あとはセンスや創造性、ひらめきの勝負。昔のグラフィックデザインはアイデアとPhotoshopなどを使いこなす技術力が必要だった。だが、これからはアイデアとセンスに集約される時代。そこで負けなければいいだけだとマサヤ・イチは考えた。

ANIMAREALのマサヤ・イチ

画像生成AIとしてMidjourneyとStable Diffusionが知られているが、マサヤ・イチは「自由度が高く、予想を超えた答えが返ってくることがある」との理由でMidjourneyを選んだ。欲しい画像の説明を英文で打ち込むと、画像の候補を生成してくれる。

「現時点ではAIは、まだほとんどグラフィックデザインの業界には入ってきていません。趣味で使う分にはいいんですが、仕事では使えないということですね。AIは安定してないんですよ。正確性がない。

たとえば『東京タワーの画像を出して』と指示しても、建物の大きさやデザインやカラーが全て微妙に違う画像が生成されます。正確でないものを仕事では使えないですよね。ストックフォトを使った方がいい。

あとは出力サイズが小さいという問題もあります。SNSサイズしか出せないんですよ。完全に制約のないファンタジーであったりアート制作をする分には優秀な存在なんですが、グラフィックデザインの業界で、なかなかそんな案件はないですよね。

幸運なことに自分は「ビジュアル制作」を主戦場にしていて、デザイナーというよりもグラフィックアーティストとして認知されているので、キービジュアルやCDジャケットなど自由度の高い『アート』な案件がほとんどだった。また、出力サイズ問題もマットペイントを極めてきた自分は解決できたりするので、いち早く案件に仕事のツールとして画像生成AIを組み込むことができました。

僕はAIが出力したものをそのまま使用するのではなく、あくまで自分がビジュアル全体をコントロールしながら、Photoshopの作業の中に溶け込むように、ひとつのツールとして使っています。結局は作り手次第で、よりクオリティの高いものが生まれる可能性もある。そこに作者のセンスが生かされているわけです」

画像生成AIで、仕事のスピードを大幅に加速

AIを活用すれば作業スピードが格段に違う。そのとてつもなく大きい差を、「宇宙兄弟」とのコラボアート作品を制作した際に実感した。

「『宇宙兄弟』は大好きな漫画のひとつで、2019年にコラボアート作品を制作。最初にストックフォトから無数の写真画像を集め、理想に合ったものを選択。選んだ画像をコラージュしつつ、マットペイントと呼ばれるCG加工を行って仕上げていきました。ロケットの煙と空はPhotoshopを使って手描き。完成まで1ヵ月かかりました。気に入った地面の写真を探し、それをイメージぴったりに加工するだけで、2日くらいは必要ですから」

ANIMAREALのマサヤ・イチによる宇宙兄弟のアート

2019年制作の『宇宙兄弟』第1作のアートパネル。地面や空、人物などベースになる画像は、パソコン上でストックフォトライブラリーをあたって探した。

それから4年後の2023年、マサヤ・イチは再び「宇宙兄弟」をテーマにしたアート制作に挑んだ。今度は画像生成AIを活用。多くのパーツをAIでつくり上げた。

「作業は以前と比べものにならないくらい、短時間で済みました。必要なパーツをストックフォトライブラリーで探すとなると、どれくらいの時間がかかるか……。時には3DCGも必要になりますから。この作品に関して言えばですが、とにかくリサーチや検索の時間が激減した。

Photoshopデモ版に搭載されているAIジェネレーター機能と合わせて使用することで、マットペイントの作業そのものも楽になりました。AIを使用しなくても、ビジュアルのクオリティそのものは変わらないかもしれませんが、時間を短縮しリソースを空けれたことで、その時間をシーンの考察に使うことができました。AIを使用して、作品には使用しない別のシチュエーションのイメージ画像、アートボードのようなものをたくさん出力して、頭の中でリアルなイメージを描いていったんです。そういう意味では作品としてのクオリティは上がっているはずです」

第1作から4年後、2023年に制作した『宇宙兄弟』の第2作。パーツの作成に画像生成AIを使用。集めた画像をPhotoshopで組み上げていった。

第1作から4年後、2023年に制作した『宇宙兄弟』の第2作。パーツの作成などに画像生成AIを使用。Photoshopで組み上げていった。 ©️小山宙哉 / 講談社 ©️ANIMAREAL / ICHI

AIも学べるグラフィックアートスクールを開校

「さらに、新たなチャレンジとして、この秋、オンラインでグラフィックアートスクールを開校することにしました。画像生成AIの誕生により、時間や技術力がなくて諦めていた人がアート作品をつくれるようになってきている。アイデアとセンスを磨き、クリエイティブを目指す人が増えるとうれしいですね。

僕がセンスを高めるためにやっているのは、『10年日記』という日記アプリ。毎日、心に引っかかった画像や写真を貼りつけています。センスを高めるには自分の「好き」をアーカイブすることが大切。日記を見返すことで、自分では気づかなかったセンスや傾向がわかってきます」

AIの時代になっても、人間のセンスは欠かせない。画像を探すためにパソコンに文字を打ち込むにしても、言葉選びのセンスが大切になる。

「人間の意思が入ったアナログ感って、人の心をつかむんですよ。AIの時代では、Photoshopもすでにアナログ。パソコン画面の上でコツコツと行う作業は、AIにはない魅力があるんです。それは鑑賞する人にも伝わる。だから僕は、永遠にPhotoshopを使い続けると思います」

【ANIMAREALマサヤ・イチの作品を一挙公開! コチラから!】

※前編は関連記事よりご覧いただけます

TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=Yoshihito Koba(マサヤ・イチ氏)

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