サカナクション・山口一郎が、JTの加熱式たばこ用デバイス「プルーム・エックス(Ploom X)」とコラボレーションする、とのリリースが舞い込んできた。しかも、日本で培われた工芸技術を現代のデバイスに落とし込んで、フロントパネルを制作したという。自らも愛用する、大人の嗜好品。さて、どんな仕上がりとなったのか? そこには、どんな想いが? 本職のデザイナーではないからこそ、できることとは? 多岐にわたる仕事と趣味の話を交えつつ、そのクリエイションの極意を、前後編にわたって聞いていく。インタビュー前編。
加藤浩次との対談がきっかけ
「僕は、デザイナーではありません」――。山口一郎は、繰り返し、そう言った。ご存じ、サカナクションのフロントマンだ。取材の前日、バンド活動16年目にあたって、感謝のメッセージを発信したばかり。
2007年のメジャーデビュー以来、ミュージシャンとしての活動はもとより、ジャンルを越えた、さまざまなクリエイターと交流を重ね、音楽と多種多様なカルチャーを融合させたコンテンツを企画・運営。よりよいライフスタイルを提案しながら、「ミュージシャンに何ができるのか?」を日々、模索している。
そんな山口が、JTの加熱式たばこ用デバイス「プルーム・エックス(Ploom X)」とコラボレーションした。
今回のコラボレーションは、同郷のお笑いコンビ「極楽とんぼ」の加藤浩次との対談がきっかけだった。地元・北海道のラジオ番組(STVラジオ『加藤さんと山口くん』)で共演する加藤が、JTの協賛するフリーペーパー内で持っている連載に山口をゲストで呼び、愛煙家談義に花を咲かせたのだ。
「加藤さんも僕も喫煙者なんですけど、その時に、プルーム・エックスについて詳しい話を聞かせてもらったんです。それで、もっと深く関わってみたいなと思って、それからJTさんに相談しました。
プルーム・エックスと『ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)』の相澤(陽介)さんとのコラボレーションも見ていたので、『僕もやらせてください』と、こちらからアプローチさせてもらって。
『個性を尊重する』というプルーム・エックスの理念に共感したところもあります」
そして、まず山口の頭に浮かんだのが、「日本の美しさ」と「日本人の美意識」をデザインに取り入れることだった。コンセプトは「“本物”に宿る感覚を抽出し、洗練させて表現する」に決まった。
「僕はミュージシャンであって、デザイナーではないんですけど、コンセプトを考えるということは音楽を作るうえでもやっているので、そうした思いをガジェットにも込められないかなと思って。
今回、プルーム・エックスのデザインをやると決まった時に、『日本的な表現はどうでしょう?』と、提案させてもらいました」
デザイナーではないからこそ、できることはある
プルーム・エックスのフロントパネルを彩る“べっ甲”と“桂剥き”。日本の伝統工芸技術を用いるアイディアは、すでに持っていたという。
「コラボレーションが決まる前からずっと、日本の工芸技術を使って何かできないかなと考えていたところで、JTさんとのお話がまとまって、“これだ”と。
“べっ甲”は、日本の美しさって何だろうな…と考えた時に、頭に浮かんだものです。
で、日本のたばこの起源である煙管(きせる)に行き着いて、シガーケースにも、べっ甲製のものがありますから、それを加熱式たばこという、現代の最新ガジェットに取り入れられたら、しっくりくるんじゃないかなと思ったんです。
一方の“桂剥き”は、日本人の美意識のなかには、左右非対称の美学があるなと常々、思っていて、そこから発想しました。
京都の桂離宮が好きで、よく行くんですけど、自然の美しさを、そのまま残した無作為な様式が本当に美しい。同じく桂剥きも、そのたびごとに、表情が違って見えるところも魅力だと思います」
海外の主だった宗教建築しかり、世界共通の美意識としては「対称」があるが、日本人は「非対称」にも美を求めてきた。人の手が介在しない自然や、石材や木材などの不揃いで不完全なマテリアルに美や心地よさを感じるのは、そのせいだろう。
「実際、初めてプルーム・エックスを見た時に、“石みたいだな”と思ったんですよ。じゃあ、石と合う日本の美しさって何があるかな…というところから、日本の工芸技術を用いることを思いついて。
今回は、それぞれ実際の職人さんに試作していただいたものを、製品に落とし込んで再現したことで、各段にリアリティーが増しましたね。ひと組ずつ、手作りのオリジナルのパネルがあるんですけど、ほとんど見分けがつかない。
どのくらい本物を宿らせることができるのか…というところにも、日本の職人の技術を感じました」
プルーム・エックス本体もまた、左右非対称で(人間工学に基づいたものだろうが)、日本人の源泉に訴えかけるデザインとなっている。
「漢字も非対称じゃないですか? なおかつ“くずし”の美学もあって。自然の産物は全く同じデザインが存在しないし、どこを切り取っても表情が違う。
そこに美しさを感じて工芸品が作られてきたところに、日本人ならではの美意識を感じます。それを、プルーム・エックスに生かしたかった。
繰り返しになりますが、僕はデザイナーではないので、0からデザインすることはできないわけです。でも、だからこそ、できることはある。
僕にとってのそれは、趣味のインテリアや建築、本職の音楽などを、それ以外のものと結び付けることだと思っています」
自分の想像を超えたものを生み出す
かくして、「一人ひとりの個性を尊重する」――。山口が共感したプルーム・エックスの理念どおり、ワンオフ感が味わえる仕上がりとなった。使い捨てライターは、すぐに失くすが、オイルライターは大切にするのと同じで、自分だけのガジェットとして愛着が湧いてきそうだ。
「確かに、人とは違う“自分だけのもの”という気がしますよね。使っていくうちに、傷も付くとは思うけど、それも“味”になりそう。経年変化も楽しめるんじゃないでしょうか。伝統と最新技術が融合した、まさに現代の煙管ができたと思う。
音楽も同じで、僕は混ざり合わないものを混ぜ合わせることに、すごく快感を覚えるんです。そうした時に、自分の想像を超えたものができる。
最初から100点を狙っても、70点、80点にしかなりませんからね。120点、130点を狙って、ようやく100点に近い点がでる。今回も、苦労がなかったと言えば嘘になりますが、そこが出せたんじゃないかなと自負しています」
サカナクションの歌詞に、「たばこ」や「煙」といったフレーズが頻繁に出てくることからもわかるよう、山口とたばこは、切っても切れない関係にある。早くも、次なる展開が頭に浮かぶ。
「次は、同じ柄でたばこスティックのケースも作れたらいいなと思っているんですよ。
メガネなんかもそうだと思いますが、普段から使っている小道具に、ちゃんとデザインが入っていることで満足感も得られて、だんだん手になじんで自分のものになっていくと愛着が湧いてくる。
それって、すごく幸せなことだと思うんです、自分にとっても使われるガジェットにとっても。僕が好きな家具もそうですけど、そういうコンセプトをもって、ちゃんとデザインされたものが、もっと増えていったらいいなと思います」
▶︎▶︎後編に続く。