2023年2月23日より公開された映画『湯道』で主演を務める生田斗真さん。「銭湯は日常の幸せのひとつ」だと語る生田さんに、『湯道』への想いや撮影現場のエピソードを伺った。
見落としがちな日常に転がる幸せを大事にしていきたい
「本当に銭湯として営業したほうがいいと思うくらい完成された銭湯のセットでした」
京都の撮影所に設営された、映画の舞台となる銭湯「まるきん温泉」のセット。そのクオリティの高さに驚いたと、主演の生田斗真さんが教えてくれた。
「真ん中に浴槽があるのは西の文化。壁に富士山が描かれているのは東の文化で、西にはない。いろいろなところがミックスされた、いいとこ取りの銭湯でしたね。全国の銭湯を知っている薫堂さんならではの理想の銭湯ができたんじゃないかと思います」
物語上、共演者と入浴するシーンも多く、風呂はコミュニケーションの場でもあったそう。
「やっぱり裸の付き合いというくらいですから、一緒にお風呂に入るとその人のことをより深く知れたような気持ちになります。これまでも、例えば地方ロケの宿泊先の大浴場で、俳優仲間と一緒に湯に浸かると、不思議とすごく仲良くなれるんですよ。いまだに『あの人と風呂に入ったな』と思いだすくらい。全国の銭湯でこういう交流がたくさん生まれているんだろうなと思いました」
銭湯という場ならではの温かみについて語ってくれた生田さん。今回、演じた主人公の三浦史朗は、湯に浸かる喜びに対して懐疑的な、冷ややかに見ている人物として登場する。かつては東京で活躍する建築家だったが、挫折を経験。銭湯を営む実家にやむを得ず戻ってくるところから、物語が始まる。
鈴木雅之監督からは、「“シャラッ”とした感じで」と、独特の、抽象的な言葉で役のイメージを伝えられたという。「『わかりました!』と言って演じていたんですけど……」と笑いながら打ち明けてくれたが、演技の背景には史朗へのこんな想いがあった。
「『強がらなくていいんだよ』と言ってあげたくなるような役でした。風呂屋の息子、とバカにされてしまう青春時代があって、それが嫌で嫌で東京に逃げて。だけど仕事がうまくいかなくて、故郷へ逃げて帰ってきて……でも、東京に染まってしまったせいで、結局そこでも自分を出せないでいる。どことなくかわいげや愛らしさが残るといいな、と思って演じていました」
そんな史朗と対照的に描かれるのが、父親の跡を継いで銭湯を切り盛りする弟の三浦悟朗。演じたのは濱田岳さんだ。「ある日、撮影終わりに岳くんとごはんを食べに行ったんです。普段は『斗真さん』と呼ばれているんですけど、『お兄ちゃんって呼んでいいですか?』と言われて、それから撮影期間中はずっと、『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と呼んでくれたんですね」
生田さんと濱田さんの共演は今回で3回目。撮影中は本当の兄弟のように仲を深めたが、映画のなかでは、実家の銭湯の存続をめぐり対立する役どころ。浴場で、取っ組み合いの兄弟喧嘩をするシーンもある。桶を投げ合ったり浴槽に突き飛ばしたり、大きなアクションもあったが、打ち合わせはほとんどせずに撮影に臨んだ。
「演技も『ふたりに任せる』と言われたんです。自慢のセットを大いに使えた、僕も印象に残っているシーンです。喧嘩ですけど、楽しかったですね」
兄弟、親子、夫婦など、映画ではまるきん温泉に集まるさまざまな家族の姿が描かれている。家族の物語に“風呂”がどう絡むのかも、見どころのひとつだ。
「親子で見に行って、『行ってみたい』と思った子供が銭湯デビューをしてくれたら、嬉しいですよね」
そして、生田さんにとって『湯道』は、日常のなかのささやかな幸せに今一度目を向けるきっかけをくれたという。
「例えば、宝くじが当たらなくても、恋が実らなくても、その日の夜ごはんのから揚げが美味しかったとか、帰り道に花が咲いていてそれがきれいだったとか、そういうちょっとしたことでも幸せは得ることができる。やっぱり銭湯もそういう日常の幸せだと思うんです。僕自身、日常にある幸せを、ひとつひとつ大事にできる人間でありたいな、と思いました」
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『湯道』
『おくりびと』小山薫堂×『マスカレード』シリーズ製作陣×超豪華出演者が贈る、“湯”一無二の完全オリジナル「お風呂エンタメ」。出演は生田斗真、濱田岳、橋本環奈、小日向文世、吉田鋼太郎、窪田正孝ほか。監督は鈴木雅之。現在公開中。
Toma Ikuta
俳優。1984年北海道生まれ。数多くの映画、 ドラマ、舞台で活躍。2011年に第84回キネマ旬報ベストテン新人賞、第53回ブルーリボン新人賞を受賞。2022年にはNetflixドキュメンタリードラマ『生田斗真 挑む』が全世界に独占配信、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』 にも出演した。