2017年に乃木坂46を卒業後、映画『サマーフィルムにのって』やドラマ『お耳に合いましたら。』などで主演を務め、俳優として輝きを放っている伊藤万理華。そんな彼女に、2022年10月14日に公開された映画『もっと超越した所へ。』に出演して得た刺激と、演じることへのスタンスを聞く。連載「NEXT GENERATIONS」とは……
自分を出すために戦っていた乃木坂46時代
前編のインタビューで、彼女はなぜ「諦めなくて良かった」と表現したのか? そこを深堀りすると、彼女の映像作品に対する愛情のようなものが浮かび上がってきた。
「グループに所属するアイドルにとって、卒業後の進路というのは一番悩むところだと思います。実際私も悩みました。乃木坂46時代、自分は何を一番大切にしていたのか? それを振り返ったとき、映像作品だったと気づいたんです。映像を制作する現場が好きですし、その監督のつくる世界観に入れる喜びがありました。今でも鮮明に覚えているくらい『山岸さん(※)の現場だ! 嬉しい!』と思っていたし、それが頑張るモチベーションになっていました。
監督の世界観に入るならこういう感じかな?と、自分のなかでいろいろ想像しながら作り上げる作業が好きでした。今もそのマインドは変わっていません。だから今回時間を経て、こういう大きな作品で山岸さんと再会できたことがすごく嬉しくて。そういう意味で好きなことを諦めなくて良かったと思いました。」
※山岸聖太/乃木坂46のミュージックビデオを多く手がけ、映画『もっと超越した所へ。』で監督を務める。
乃木坂46というアイドルグループとしてのチームワークを大切にしながらも、来たるべき卒業の日に向けて個を強化していくために、彼女は何を意識していたのだろうか。
「最初からグループのなかで前にいたわけではないので、自分の個性を出すにはどうしたらいいんだろうと考えていました。焦りもあるなかで一番救われたのが、ショートフィルムなど映像でのお芝居でした。監督との相性がいいと、表現の自由度が上がり、自分の色を出せるようになる。映像があったから乃木坂46のなかで、誰かと被ることなく、今のポジションを築くことができたのかなと思います。だから、同世代の子が集まっていたわりに、他のメンバーを変に意識することもなく、伸び伸び活動ができていました。でも、同じグループではない同世代の女優さんが出演している演劇や舞台を見ると、『こういうことを自由にやれるのはいいな』と羨ましい気持ちになりました」
自分の中で溜まっていた自我を、グループの卒業直前に個展「伊藤万理華の脳内博覧会」で吐き出せたことも、活動していく上で大きな自信になったという。
「ファッションや写真、何かをディレクションしたいという欲求が形にできたんです。仕事は大変だし苦しいけれど、それを突破した上で生まれる喜びみたいなものをすごく感じています。最近、自分の好きな制作活動だけをやっていたら逆に発散できなくなってしまったことがあって。そんなタイミングで入った久々のドラマ撮影にめちゃくちゃ救われました。私にとっては制作作業で自分を吐き出すことと、自分の身体を使って役を表現すること、どちらもものすごく大切なんだなと気づきました」
一見軽いノリで、ジャンルレスに広げていく
この記事に掲載されているポートレートの撮影現場でも、彼女はその身体表現力で我々を魅了した。フォトグラファーが細かく指示をしなくても、徐々にポーズと表情を変化させていき、臆することなく自らファインダーに近づいていくことも。2人の間にほとんど会話はなかったが、撮る側と撮られる側、人と人とのセッションから何かが生まれることを、伊藤万理華は知っている。ふと、“伊藤万理華監督”が誕生するのは、そう遠くない未来のような気がした。
「いやいや、全然考えていないです! できるかわからないですし自信もないです。10年前から『これが好き!』という気持ちを貫いてここまで来ているので、これから先も興味が出てきたらいろいろ手を出すとは思います」
それは、伊藤の周りに存在する、“肩書きにこだわらない”生き方を実践する友人の影響も大きいという。
「臨機応変な人が多いんです。それこそ、(『もっと超越した所へ。』で共演したオカモト)レイジ君はもともと友達でした。レイジ君のマインドは私たち世代が共通して持っているものだと思います。『これは◯◯だからやらない』ではなく『面白そうだからやってみよう』といった、一見軽いノリだけれどジャンルレスにいろいろなものを広げていっている第一人者がレイジ君だと思います。
いい意味で一切隠さず、でも自分の見せ方として意識している部分もあり、すごくバランスが良い。レイジ君に影響を受けている人はたくさんいると思いますし、私もその1人です。私も自分の見せ方は意識するけれど、意識するからこそ興味があることに対して一歩を踏み出し挑戦する精神を保ち続けていたいです」
伊藤万理華のパブリック・イメージを意識しつつ、その枠内に留まろうとせず、自身を更新していく。10年前から「これが好き!」という気持ちや興味のアンテナに誠実に進んでいる彼女に、10年後、どうありたいかを聞いた。
「36歳……、(少しだけ考えて)今とあまり変わらないと思います。大きな目標があるわけではないですし。でも、野望は全然あります(笑)」
その野望について質問すると、「聞いちゃいますか?」と、照れくさそうに微笑みながら、教えてくれた。
「自分で映像作品を制作してみたいです。10年前から山岸さんの演出を見ていてどうやってつくるんだろうとすごく興味があったので。いずれは、もしかしたら誰かをディレクションしたいと思うのかな? でも今はまだ、自分のことでいっぱいいっぱいです。でも『これは伝えたい!』というものがもっとはっきりと見えたら、今まで出会った皆さんに協力していただいていつか形にしたいです」
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Marika Ito
1996年2月20日大阪府生まれ。2011年から乃木坂46一期生メンバーとして活動し、’17年に同グループを卒業。現在は俳優としてドラマ、映画、舞台に出演する一方、PARCO展「伊藤万理華の脳内博覧会」(’17)、「HOMESICK」(’20)を開催するなど、クリエイターとしての才能を発揮。映画『映画 賭ケグルイ』(’19/英勉監督)やTVドラマ「潤一」(’19/KTV)、舞台『月刊「根本宗子」第17号「今、出来る、精一杯。」』、『月刊「根本宗子」第18号「もっとも大いなる愛へ」』。’21年は、地上波連続ドラマ初主演を務めた「お耳に合いましたら。」(TX)に出演。初主演映画『サマーフィルムにのって』(’21/松本壮史監督)では国内映画賞のトップバッター、TAMA 映画賞にて最優秀新進女優賞を受賞、第31回日本映画批評家大賞にて新人女優賞を受賞するなど、多岐に渡って活動中。映画『そばかす』が’22年12月16日公開。公式HPはこちら
■連載「NEXT GENERATIONS」とは……
新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載「NEXT GENERATIONS」。毎回、さまざまな業界で活躍する10~20代の“若手”に、現在の職業にいたった経緯や、今取り組んでいる仕事について、これからの展望などを聞き、それぞれが持つ独自の“仕事論”を紹介する。