2022年シーズン、中日ドラゴンズでここまで、捕手として強肩を魅せ、打者としては高打率を記録しているプロ3年目の岡林勇輝。そんな岡林勇輝がスターとなる前夜に迫る。連載「スターたちの夜明け前」とは……
チームの打撃低迷に光を射す存在
“ミスタードラゴンズ”である立浪和義新監督が就任したものの、セ・リーグの最下位に沈んでいる中日(2022年9月1日終了時点)。ここ数年課題と言われている得点力不足が解消される気配はなく、今年も貧打に苦しんでいる。
しかしそんなチームにあって大きな希望の星と言える選手が登場した。それが入団3年目の岡林勇輝だ。開幕から外野の一角に定着すると、持ち味の運動能力を生かしてヒットと盗塁を量産。ここまでいずれもチームトップとなる129安打、17盗塁をマークし、打率もリーグ6位という好成績を残しているのだ。更に注目を集めているのがその強肩で、外野手としての補殺7はセ・リーグトップの成績である。失策4と外野手としては少し多く、堅実さには課題が残るものの、近い将来ゴールデングラブ賞の候補となる可能性は極めて高いだろう。
そんな岡林の名前を初めて聞いたのは高校1年の時だ。しかし純粋な本人への注目度というよりも、同じ菰野高校の2年上である兄(岡林飛翔・元広島)が先に150キロを超える本格派右腕として評判となっており、その弟ということが名前を知ったきっかけだった。そして岡林自身も、高校時代は投手として注目を集める存在だった。菰野高校は高校球界でも好投手を多く輩出するチームとしてよく知られており、代表的なOBは西 勇輝(阪神)が挙げられる。岡林の1学年上にも田中法彦(広島)が所属しており、その田中をお目当てに訪れた2018年7月17日の対伊勢高校戦が岡林のプレーを見た最初の試合だった。
この試合は先発した田中が3回まで無失点と好投。ストレートの最速は150キロをマークし、ドラフト候補として十分なピッチングを見せている。当時2年生だった岡林はレフトで出場。点差の開いた4回からマウンドに上がったが、いきなり連続四球を与えてピンチを招くことになる。
ダイナミックなフォームでストレートも最速148キロをマークするなど勢いは十分だったが、重心の上下動が大きく、リリースはかなり不安定だった。当時のノートにも「馬力と腕の振りは素晴らしいが、テイクバックで右肩がかなり下がりコントロールは不安定。投手としてはまだまだ“鑑賞用(実戦では物足りないという意味)”」と書かれている。連続四球の後は後続2人を打ち取ったが、5人目の打者にはセンター前ヒットを打たれ、味方の好守で何とか無失点に切り抜けるという内容だった。
並外れた強肩とパワーを魅せた高校2年時
一方で驚かされたのがそのバッティングだ。第1打席では内角高めのストレートを完璧にとらえてライトスタンドへ運ぶツーランを放つと、続く第2打席でも更に厳しいボールを見事に振りぬいて2打席連続のホームランとして見せたのだ。打った相手も最速133キロと高校野球では決してレベルの低い投手ではなく、また左投手でクロスに踏み出す少し変則的なフォームであり、左バッターの岡林にとっては厄介なピッチャーだったことは間違いない。そんな投手を相手に2打席連続で完璧なホームランを放つというのは打者としての只ならぬ素質をよく表していると言えるだろう。当時のノートにも投手としてよりも野手としての記述の方がはるかに多く、以下のような絶賛の言葉が並んでいる。
「ステップする時に少し“間”を作ってしっかりボールを呼び込むことができており、体の近くから鋭く振り出してとらえる。後ろが小さく前が大きい理想的なスイングの軌道で、ボールの下にバットを入れて打球を上げるのが上手い。フォロースルーの形は福留(孝介)とイメージが重なる。パワーというよりも技術で遠くへ飛ばしている印象」
この試合には田中をお目当てに多くのスカウト陣がネット裏に訪れていたが、岡林のバッティングを見た中日のスカウトが、これ以降は野手として注目するようになったという。実際に3年時には150キロを超えるスピードをマークし、東海地区でも指折りの本格派として評判だったが、やはり制球難から投手としてはそこまで高く評価されることはなかった。結局中日も1年目から野手として起用し、今年のブレイクに繋がっているが、この日の2本塁打がなければ今の岡林の姿はなかったかもしれない。
今年の成績で一つだけ物足りないのは本塁打0という数字である。広いバンテリンドームナゴヤを本拠地としており、リードオフマンという役割からもまずはヒットを狙うというのは正しい選択と言えるが、高校時代のバッティングを考えると長打、ホームランももっと打てるポテンシャルは秘めているはずだ。来年以降、更にスケールアップし、当時のノートにイメージが重なると書いた福留孝介のような万能タイプの選手へと成長してくれることを期待したい。
Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てる!