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2022.09.07

ラーメンがヒント!? パティシエ・小山進が開発した新感覚プリンとは

「小山ロール」の生みの親として知られるパティシエ・小山進さん。今回、商品開発をするための拠点「パティシエ エス コヤマ」にて、ゲーテ統括編集長の舘野晴彦が、新しいスイーツ開発の秘密や、創作の源についてインタビューを行い、小山さんの職人としての顔に迫った。【小山進の経営者の顔はこちら】動画連載「2Face」とは……

小山氏

小山進のこだわりが結集したお菓子の街

小山進さんの創作の源を探るため訪れたのは、兵庫県三田市にある洋菓子店「パティシエ エス コヤマ」の本店。ここは、庭つきの一軒家パティスリーで、総敷地面積はなんと約1500坪。その敷地内には、ショコラ専門店、アイスクリーム工房、パン工房、カフェなどがあり、さながらお菓子のテーマパークのよう。ヘンゼルとグレーテルの世界に入りこんだような気分になる。まずは、このお菓子の街のコンセプトについて聞いた。

「僕はもともと、お菓子を作って売るというよりも、商品開発をする集団を作りたいという思いがありました。その拠点・メインラボが必要だと思い、『パティシエ エス コヤマ』を作ったんです。

それぞれの建物にはテーマを設けています。洞窟のようなこの空間は、新作のショコラができた時に、お客様に発表させていただく場所(セミナールーム)なのですが、母親のお腹の中をイメージして設計しました。

「パティシエ エス コヤマ」内のセミナールーム。まるで洞窟のような空間で、年に数回、有料でショコラセミナーが行われる。

子供の頃、押し入れや狭くて暗い空間に閉じこもった経験はありませんか? 自分なりの解釈なのですが、それは子供なりに、お母さんのお腹の中を思い出しているのかな? と考えました。落ち着く場所、集中できる場所、そんな空間で新作のお菓子をお客様に届けられたらと思ったんです」

「パティシエ エス コヤマ」に足を一歩踏み入れると、お菓子はもちろんのこと、建物の外観や内装、ショーケースの配置、流れる音楽の響き方、そのひとつひとつに、細部まで計算されたこだわりを感じられる。

その緻密さに加え、アクティブさも持ち合わせる小山さん。以前ゲーテで取材した際も、「新作のショコラを作るためにヨーロッパや中米、メキシコなどに視察へ行って、アイデアを見つけてきます」と話していたが、コロナ禍で海外に行くことが難しくなってからは、まったく別のアプローチで新作スイーツのヒントを得ていた。

趣味のラーメン作りを極めるなかで生まれたバタージュレ

「コロナ禍であまり外に出られないなか、楽しく休日を送ることのひとつとして、ラーメン作りという趣味を見つけました。麺を打つところから始めるのですが、粉選び、水の回し方など、深掘りするのが好きな性格なのでどんどんハマってしまって。

麺を極めたら、次は鶏白湯スープ作りに凝ってしまいました。冷凍庫に入っていた鶏のもも肉でダシを取り、皮から取った鶏油を入れてみる。時間が経ってもスープが分離しないようにするために、試しに家庭用のゼラチンをふやかして入れて実験してみました。すると、1時間経っても分離しない、乳化した状態のスープが完成。 ゼラチンがいい仕事をしてくれたんだと気がつきました。そんな時に創作のヒントが浮かんできて、『あっ! これで新しいお菓子ができる! 』と思ったんです。

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夏限定で販売していた「小山ぷりん 夏バタージュレ~マンゴーチーズケーキ~」。※現在は販売終了

鶏白湯スープ作りからヒントを得て生まれたのが、バタージュレ。うちには『小山ぷりん』という商品があるのですが、その季節限定版として、プリンの上にイチゴやマンゴーなど、季節のフルーツの層を重ねています。今回は、フルーツの層の部分に、バタージュレを使って改良しました。フルーツの水分にバターの油を乳化させることによって、濃厚なフルーツのバタージュレに仕上がる。このバタージュレにはゼラチンを入れているので、水と油の分離を防ぐことができるんです」

鶏白湯スープ作りからヒントを得た、新作スイーツとは実に興味深い。早速、「マンゴーバタージュレ」をいただいた。まず、その濃厚さに驚いた。とにかく美味しい。ジュレなので歯応えはないが、まるでマンゴーをそのまま食べているかのような感覚になった。

「バターで乳化させることで、濃厚さに加え、弾力のある厚みが出せました。バターの特性により、本物のマンゴーの食感に近づけたようです」と語る小山さんは、まるで実験を繰り返す化学者のようだ。パティシエ・小山進の職人としての顔は、お客様に新しい美味しさと感動を届けるため、時に緻密に、時には大胆に、そして何より自然に発想し、新しいことに挑戦を続ける、クリエイターの顔だった。

■小山進の経営者の顔はこちら

Susumu Koyama
1964年京都府生まれ。テレビ番組出演がきっかけとなり、いっさいの妥協を排し3年がかりで開発された「小山ロール」は、その完成度の高さから人気となり、日本全国にロールケーキブームを招く。2003年兵庫県三田市に「パティシエ エス コヤマ」をオープン。フランスの最も権威あるショコラ愛好会「C.C.C.」が行う品評会で、'11年から8年連続最高位を獲得する。

Haruhiko Tateno
1961年東京都生まれ。'93年、創立メンバーの一人として幻冬舎を立ち上げて以来、各界の著名人たちの多彩な作品を世に出し続ける。2006年に「GOETHE」を創刊し、初代編集長も務めた。

動画連載「2Face」とは……
各界の最高峰で戦う仕事人たち。愛する仕事に熱狂する姿、普段聞けないプライベートな一面。そんなONとOFFふたつの顔を探ると見えてくる、真の豊かな人生に迫る。

過去連載記事

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COMPOSITION=石原正也

TEXT=田中美紗貴(ゲーテ編集部)

PHOTOGRAPH=田中美紗貴(ゲーテ編集部)

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