PERSON

2022.01.20

体はあざだらけでも楽しい。飛び込み元日本代表の馬淵優佳の新たなる決意──連載「コロナ禍のアスリート」Vol.41

まだまだ先行きが見えない日々のなかでアスリートはどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「コロナ禍のアスリート」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

写真:松尾/アフロスポーツ

日本選手権や’24年の代表選考会を視野に入れる

2022年を迎え、飛び込み元日本代表の馬淵優佳(26)が現役復帰を表明した。'17年8月のユニバーシアードを最後にプールを離れていたが、昨年10月から本格的に練習を再開。水面に何度も打ちつけられた体はあざだらけで「下手な証拠です」と苦笑いを浮かべた。

昨年12月には石川県で開催された中田周三杯に出場し、4位入賞。大目標として'24年パリ五輪出場を視野に入れつつ「まずは世界で戦える種目構成にするため(1度目の)現役時代よりも演技の難易率を上げないといけない。それができたら来年の日本選手権や'24年の代表選考会が見えてくると思います」と目前の課題を一歩ずつクリアしていく姿勢を示した。

競技を離れていた間はトップアスリートの取材をはじめ、バラエティー番組出演や女優業も経験した。ドラマでは俳優の小栗旬(39)と共演し「ドラマの撮影現場はカメラが回った瞬間にガラッと空気が変わる。プロ意識が高くアスリートに似ていると感じました」とプロ意識の高さに脱帽。東京五輪前には、1児の母である陸上女子100m障害東京五輪代表の寺田明日香(31=ジャパンクリエイト)に話を聞く機会があり、「限界を決めずにやる姿勢が格好良かった。自分にはやり残したことがある」と現役復帰の思いを強くした。

父は飛び込み日本代表でコーチを務める崇英氏(58)。馬淵は3歳で水泳を始め、6歳から飛び込みに取り組んだ。'08年日本選手権で板飛び込みとシンクロ高飛び込みの2冠を達成。'09年東アジア大会で銅メダルに輝き、'11年世界選手権にも出場した。順調にキャリアを重ねたが「(1度目の)現役時代はずっと競技が嫌いでした。やらされている感が強かった」と回想する。'17年5月に'16年リオ五輪競泳男子400メートル個人メドレー銅メダルの瀬戸大也(27=TEAM DAIYA)と結婚すると、同年11月に現役引退を表明。'18年6月に第1子、'20年3月に第2子を出産し、夫を支えるためにアスリートフードマイスターの資格も取得した。

真剣勝負の世界に戻れた幸せ

現在は都内近郊の自宅と練習拠点の栃木県を行き来する生活。家を留守にする間は1歳と3歳の娘の面倒は両親に見てもらっている。'24年パリ五輪での金メダルを目指す夫・瀬戸は世界を転戦しており、家族皆で過ごせる時間は短い。それでも毎日LINEでグループ通話してコミュニケーションをとる。現役復帰を夫に相談した際は「いいんじゃない」と理解を示してもらったといい「夫も挑戦するのが好きなので、私の挑戦も後押ししてくれています」と笑顔で明かした。

練習中は同じ会場を拠点とする東京五輪代表の榎本遼香(25)らから積極的にアドバイスをもらい、動画などを駆使してトップ選手の動きを研究。1度目の現役時代には取り組まなかったウエイトトレーニングにも週2回のペースで励む。「(1度目の)現役の時は競技が好きではなかったので、他の選手を見て“こうすればいいんだ”と思うことはなかった。今はもっと知りたいし、学びたい」と充実した表情を浮かべる。

トップ返り咲きへの道が簡単でないことは十分に理解している。練習再開から約4カ月が経過したが「筋力も技術も足りない。うまい選手は自分と体の使い方が全然違う。今は筋力がなくて、板に遊ばれている感覚。練習再開直後はトレーナーさんから“筋力は一般の人より低いぐらい”と言われた。まだアスリートといえる体ではない」と冷静に分析。その上で「今は競技を楽しめているので、どこまでいけるか楽しみ」と視線を上げた。

今後はアスリートとしての活動に専念する方針で「世の中には何かをやりたいと思っても、環境が整わなかったり、周りの目が気になったりして、一歩を踏み出せない方がたくさんいるはず。人生一度きり。自分の飛んでいる姿で一人でも多くの方に何か感じてもらえればうれしい」と実感を込めた。真剣勝負の世界に戻れた幸せを噛みしめながら、ノースプラッシュの美しい入水を求めて奮闘する日々が続く。

TEXT=木本新也

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