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2021.12.31

【オカダ・カズチカ】「人は誰でも自分で思う限界をはるかに超える力を持っている」──新刊『「リング」に立つための基本作法』Vol.1

2022年に創立50周年を迎える新日本プロレス。団体を牽引するプロレスラー、レインメーカーことオカダ・カズチカが自身のポリシーやプライベートを綴った『「リング」に立つための基本作法』が発売中。そのなかから一部を抜粋して紹介する。

オカダ・カズチカ氏

マインドを鍛えるためのスクワット

プロレスラーの身体づくりにおいてもっとも大切なトレーニングの一つにスクワットがある。

スタンダードなスクワットは、次のプロセスで行う。

① リラックスして直立。脚は肩幅くらいに開く。
② かかとを上げ、息を吸いながら膝を曲げ、大腿部が床と平行になるまで腰を落とす。このとき、背中はできるだけ垂直になるように意識する。
③ ②の姿勢で一度動きを止め、息を吐きながら腰を上げ、①の姿勢に戻る。
④ ①〜③をくり返す。

さらに、プロレスラーは両手を上げ下げしながらこの運動を行う。プロレスファン以外にも有名なヒンズースクワットだ。

ライガーさん(獣神サンダー・ライガー)たち、昭和から闘っている先輩レスラーたちはヒンズースクワットを一日に3000回も行っていたと聞く。気が遠くなるほどの回数だ。

だが平成以降は一日に1000回くらいになった。過剰なスクワットで膝が悪くなるという指摘があったからだ。

筋力トレーニングとしてのスクワットは、実は1000回でも多い。その半分の500回で、大腿筋も大殿筋も十分に鍛えられる。コーチも、500回でも1000回でも鍛えられ方は変わらないとわかっている。

では、なぜ1000回もスクワットをやるのだろうか─。

そこには理由がある。レスラーはスクワットによって、フィジカルだけではなく、マインドが鍛えられるのだと僕は思っている。

スクワットを1000回行うのはきつい。大腿筋がパンパンに張る。身体ができていない練習生時代は歩けなくなるほどだ。ひたすら汗が流れ、床に水たまりができる。しかしそれによって、心も確かに強くなる。

やがてレスラーとしてキャリアを重ねると、1000回行う筋力が備わる。筋力、体力的には何度でもできるようになる。

すると今度は、飽きとの闘いになる。同じ場所で同じ動作を1000回くり返すのは退屈だ。動きは単調だし、景色も変わらない。それでも、頑張り続ける。

こうして、スクワットによって心が強くなっていく。

多くの場合、人は自分で自分の限界を決める。

「これがオレの限界だ」

「もうこれ以上はできない」

それまで体験したことのないレベルの苦しみを感じると、もうこれ以上は無理だと思ってしまう。ところが人間は、「ここが限界」と思った時点から、実はまだかなり頑張れる。自分の意思ではなく、コーチにやらされる1000回のスクワットがそれを教えてくれる。

たとえば試合で関節技を決められ、ロープエスケープするにもロープが遠い……。とんでもなく痛い。そして意識が遠のいていく。

「ギブアップか……」

あきらめが頭をかすめる。

マットをパンパンパンと叩けばギブアップ負けになり、同時に激痛から解放される。すべてが楽になる。ギブアップしたからといって、命を取られるわけではない。

「でも、待てよ……」

自分に問いかける。

「もう限界と思ったところから、オレ、実際はまだまだ頑張れるんだよな」

スクワット1000回の体験がよみがえる。

自分がまだまだできることは、頭よりも身体が知っている。

プロレスラーには限界から先の姿を見せていく使命があると思う。スクワットの体験を思い出すと、そこを耐えることができるのだ。

技をかけられている側はもちろんつらいが、技をかけている側もつらい。負荷がかかり、疲労してくる。そこに隙が生まれ、抜け出すことができる。そうして耐えてしのいで、逆転勝ちした試合は数えきれない。

ジムに通った経験のある人なら誰でもわかるはずだ。

ウエイトトレーニングは、自分の思う限界を超えないと筋肉が大きくならない。

ふだん60㎏のバーベルを10回上げている人が、同じ重さを同じ回数くり返し上げていても、おそらく現状維持だ。60㎏を10回上げられたら70㎏に挑戦する、というように自分の思う限界を超えてこそ筋肉は成長する。

だから、パーソナルトレーナーは、自分が担当する人に対し「6回上げましょう」と言いながら、6回に到達しようとすると「あと2回!」と、回数を増やす。

6回上げればいいと思っていた人は、心にショックを受けつつも、観念して、さらに2回、バーベルを上げる。そしてこの2回こそが力になり、筋肉を大きくする。

強くなるのは身体だけではない。6回しかできないと思っていた人は、トータルで8回上げることによって、心も強くなる。追加分の2回は最初の6回よりも苦しく、気持ちも鍛えられるからだ。

身体にとっても、心にとっても、6回まではウォーミングアップ。パワーアップするのはその先だと理解してほしい。

そしてその先のトレーニングでは9回、10回……と回数を増やしていく。そうしていくうちに身体は確実に大きく強くなり、心も鍛えられる。

人間は往々にして自分の限界を自分で決めてしまっている。過去の自分の体験の最高を限界と位置付けていることが多い。

しかし人は誰でも自分で思う限界をはるかに超える力を持っている。自分で考えているよりもポテンシャルがある。

限界は、実は限界ではない。限界を決めてはいけない。決めなければ、力はどこまでも伸びていく。

この原理原則を体験的にわかっている人間は強い。どんな仕事に就ついていても、苦しい局面はあるだろう。

「もう無理!」

そう感じるのがふつうだ。

しかし、無理だと思ってからさらに高いレベルへ行った体験を持つことによって思い直す。

「ここが限界と思っても、実際にはそこからまだまだやれるんだよな……」

自分を納得させて、未体験の領域にトライする。

その結果、成長があり、まだ見ぬ自分と出会うことができるのだ。

限界を自分で決めてはいけない。

さまざまな世界にいる人生の成功者たちは、ほぼ間違いなく、このシンプルな法則を知っている。

 

『「リング」に立つための基本作法』

『「リング」に立つための基本作法』
オカダ・カズチカ
¥1,600 幻冬舎
なぜ強いのか、なぜ特別な存在であり得るのか……。オカダがトップに昇りつめるにあたって、強く意識したこと、自分に課していることを、心と身体、両面から率直に綴る。老若男女、誰もが自らの「リング」に立つためのヒントになる、オカダ流人生の極意の数々。アントニオ猪木や天龍源一郎との遭遇、闘い、教えられたことの記述も興味深い。
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オカダ・カズチカ
1987年愛知県安城市生まれ。15歳のときにウルティモ・ドラゴンが校長を務める闘龍門に入門。16歳でメキシコのアレナ・コリセオにおけるネグロ・ナバーロ戦でデビューを果たす。2007年、新日本プロレスに移籍。11年からはレインメーカーを名乗り、海外修行から凱旋帰国した12年、棚橋弘至を破りIWGP ヘビー級王座を初戴冠。また、G1 CLIMAX に初参戦し、史上最年少の若さで優勝を飾る。14年、2度目のG1制覇。16年、第65代IWGP ヘビー級王座に輝き、その後、史上最多の12回の連続防衛記録を樹立。21年、G1 CLIMAX 3度目の制覇を成し遂げる。得意技は打点の高いドロップキック、脱出困難なマネークリップ、一撃必殺のレインメーカー。191cm、107kg。

PHOTOGRAPH=玉川 竜

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