インタビュー当日は、今市隆二の誕生日だった。35歳、世間では“節目の年”といわれる年齢だろう。祝意とともにそう水を向けると「正直、その感覚はまったくないんですよ」と答える。
「30歳になる時はそういうことも考えました。より責任を持って仕事をやっていこう、って。そこから5年たったというだけで、あんまり変わらないですね。四捨五入してしまえばアラフォーだけど、そこも全然気にならない。『35歳なんだな〜』くらいの感じで、心は少年のままですね(笑)。ただ、いろんな先輩方に『35歳から体力的に落ちてくるよ』と言われているので、それが徐々に来るのかな?と思っています。まだ全然そんなことないんですけどね」
昨年春、登坂とともに行ったLDH PERFECT YEAR 2020 SPECIAL SHOWCASE RYUJI IMAICHI/HIROOMI TOSAKAのファイナルは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止せざるを得なかった。だがその後もクリエイティブの手を止めることなく、今年7月には3枚目のオリジナルソロアルバム『CHAOS CITY』をリリース。エンタテインメント業界全体がどんどん苦しくなっていた状況を、ひとりのアーティストとしてどう受け止めていたのだろうか。
「生きていくためにいろんなことを想像して試さないといけない状況でしたよね。でも、医療従事者の方をはじめ、大変な人がたくさんいて、心がすごく疲れている人も増えていて、そんななかで自分がやれることはベストを尽くしてやりたいと思いました。アーティストだからこそできることをやろう、と。同時に、明確な目的や期限があってつくるのではない、シンプルに自分がその時に感じている音楽をつくることができた期間でもあって、その自由さや新鮮さは感じました」
自由にいろんなことを楽しむことが表現につながる
常に真摯に、全力でクリエイティブに向き合ってきた。だからこそ、その動きはコロナ禍でも決して止まらなかった。そしてその活動の幅は、今や歌うことだけに留まらない。アルバムタイトルである『CHAOS CITY』は今後、音楽のみならずジャンルを超えて展開するプロジェクトそのものになっていく予定だ。
「以前は自分がシンガーであるという意識に凝り固まりすぎて、他のものには目が向きませんでした。でも、今はその感覚がちょっと広がって、俳優をやったりバラエティに出たり、これまでだったら制限していたことにもいろいろ挑戦するようになってきました。自由にいろんなことを楽しんだほうが、結果的に表現にもつながると思うんです。そのうえでシンガー、ヴォーカリストという軸は絶対にブラさないですね。そこがなかったら、『自分って何なんだろう』と思ってしまうから」
直近で挑戦したいのは、バイクの大型免許を取ること。
「MVで使いたいなと思っていて。ずっと好きだったんですけど、最近またバイク熱が溢れているんですよね」
好きなものの話をすると、まさに少年のような顔になる。だがその胸に秘めているのは、熱い炎だ。この10年以上は、勝負と挑戦の連続だった。
「勝負する時は最初から逃げるって選択肢はありません。“やる”しかないんです。三代目のヴォーカルであることを強く感じて、自分を誇る。それが自分を燃えさせて、覚醒させてくれるんです」
昨日の自分より確実に強い自分になるーーヴォーカル、今市隆二の辞書に“後退”の二文字は存在しない。