幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から"大谷番"として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
メジャー3年間でPS出場なし
メジャーリーグは20日(日本時間21日)にワールドシリーズ(WS)が開幕した。コロナ禍の影響で今季は米テキサス州アーリントンでの1カ所開催で、最大1万1500人の観客試合。16チームで争うワイルドカードシリーズから始まったポストシーズン(PS)を締めくくる特別なシリーズは全ての野球ファンの注目を集めている。
エンゼルス・大谷は入団以来、このPSに進出したことがない。ただ、PS進出への思いは常に口にしてきた。その思いを初めて聞いたのは、1年目の2018年の総括会見だったと記憶している。「毎日、楽しく野球をできたのが一番良かったとは思いますけど、ポストシーズンに行けない悔しさはもちろんあります」と熱く語っていた。また、その後のオフのインタビューでも「今年は(PSに)出られなかったので、来年は是非出たいなと思います」と話している。
2年目に左膝膝蓋(しつがい)骨を手術したタイミングもPSが基準だった。「チームがPSに進めないことが決まり、その段階でチームから"このタイミングで(手術を)どうだ"という話があったので、僕もその方がいいんじゃないかなと思った」という。また、シーズン終盤の不振について尋ねると「7月中盤から後半にかけての球宴休み明けが一番、チームにとって大事な時期でした。そこ次第でPSを戦えるか、戦えないか決まるんじゃないかと思っていたので、ちょうどそこの機会で打てなかったことはやっぱり、悔しいなと思いました」と語っていた。
そして、3年目の今季。2年目の昨季以上の不振に陥り、一時はメジャー自己ワーストの6試合連続ベンチスタートも経験した。故障以外ではおそらく野球人生初の屈辱だったと思うが、その時の心境については次のように語っていた。
「焦りはないですけどね。PS(進出まで)ギリギリのところなので、調子のいい選手をどんどん使っていくのは普通のことじゃないかなと思う。(試合に)出た時に仕事ができる準備を毎日、毎日繰り返すっていうことが大事かなと思います」
試合に出られなくて悔しくないはずがない。だが、そんな気持ちは言葉にはもちろん、表情にも一切出さなかった。
レッズの秋山、レイズの筒香は1年目からPSに出場
月並みな感想で恐縮だが、やはりメジャーリーグはPSが面白い。屈強な大男たちが一投一打に全力を懸け、ひたすらに勝利を目指す。喜びを爆発させ、一方で悲しみに暮れる姿のコントラストは自然と心を打つものがある。メディアもこぞって大々的に報じ、活躍すれば認知度も大幅に上がる。21日(同22日)時点でPS新人最多の7本塁打を記録したレイズの外野手アロザレーナはブレークの好例だろう。
余談だが、普段のレギュラーシーズンで、東地区と西地区の試合は開始時間が同じでも最大3時間も時差がある。そのため、「東地区に住んでいる人は深夜に行われる西地区の試合なんて普段は見ない」なんて極論を言う人もいる。米国には多種多様な人種が混在するため、まずは見て、知ってもらうことが大事。プロスポーツ選手の認知度が上がる難易度が、日本と大きく違うことが容易に想像できるだろう。
大谷と他の選手を比べることはあまり意味がないが、レッズの秋山、レイズの筒香は1年目からPSに出場し、この貴重な経験を積むことができた。特に筒香は日本人野手として'14年の青木宣親(当時ロイヤルズ)以来、6年ぶりにWSの出場選手枠に入った。PSに入って出場機会は減少傾向だが、数字以上に貴重な経験を積んでいるに違いない。
今から約1ヵ月前の9月27日。大谷は今季の総括会見で「結果的にPSにいけなかったので悔しさが大きいなと思います」とやはりPSへの思いを口にしていた。来季はメジャー4年目を迎える。今度こそ二刀流復活を、と注目が集まるが、PSで大暴れする大谷が見てみたい気持ちも大きい。そして、後がない短期決戦のPSこそ、二刀流が最も真価を発揮し、全米にインパクトを与える舞台なのではないかと真剣に思っている。