師匠か、恩師か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ「相師相愛」ともいえるふたりの姿をご紹介。連載「相師相愛」第49回は、経営者と大学教授。
早稲田大学ビジネススクール教授・川上智子が語る、中村利江
前職の関西大学時代、同僚が見つけた中村さんの取材記事を読んで、「学生にこうなってほしい」と思えた人がここにいたと思いました。
ちょうど創設100周年のイベントでビジネスプランコンテストを開催することになっていて、講演とコンテストの審査員をお願いしようと、会社の代表メールに連絡を入れたんです。
お会いしてみたら、パワフルで前向きで突破力があってアイデアがどんどん出てくる。今も変わらないですけどね(笑)。
以来、シンポジウムに出てもらったり、現職に移ってからも授業に協力してもらったり。さらに、プライベートでもご一緒するようになりました。
思い出深いのは、もうひとりの友人を加えて3人で行った女子会旅行です。行く前からプランがしっかり組まれていて、現地でのスケジュールは完璧。
しかも、なんと地元食材を使った料理まで用意してくださって。これが本当に美味しくて。心配りに感動しました。3人で一緒に眺めた景色は、一生忘れないです。
経営は意思決定力が大事だと思うんですが、とにかく軸がぶれないんですよ。ひとりで海外に営業に行ったり、「当たって砕けろ」精神もすごい。見ていて、勇気をもらえます。私も頑張ろう、と。
コロナ禍でフードデリバリーを手がける出前館は、売り上げが急伸しました。社会からも大きな注目を浴びることになって私もうれしいですが、中村さんの先見の明に、やっと時代が追いついてきた印象です。中村さんは、今もときどき自らデリバリーもされています。だから、ものすごい現場感覚がある経営者なんです。
出前館 代表取締役会長・中村利江が語る、川上智子
大学の先生って、堅くて頑固なイメージがあって、ずっと距離を置いていました。
私自身、大学ではまったく勉強しませんでしたし、机上の空論の授業を聞いているより、実際に経営して失敗したほうがいいと思っていました。
ところが、川上先生はちょっと違うとすぐに感じたんですね。先生と出会ってから、理論や学問の大切さにも気づくことになりました。
お互い同年代で、男尊女卑の空気が残っていた時代から走り続けてきましたが、生き抜いてきた価値観がとてもよく似ていました。
肩に無理な力が入っていない。自然体で、できる範囲でやる。プライベートを犠牲にしない。価値観が似ているから、一緒にいて心地いいんです。
びっくりしたのは、カラオケです。映画『アナと雪の女王』の曲を歌うと聞いて、こんな難しい歌を、と思ったら本当にうまい。相当、練習されたんじゃないかと。
好きなことに夢中になるのが、また素敵です。お互い子育ても手が離れました。また、一緒に旅行に行きたいですね。
初めてお会いした時は、私の母校の関西大学の教授でした。依頼を受けた講演が好評で、先生が作られたビジネスプランの書き方を記した教科書に講演録が収録されることになったんです。これが後に、びっくりすることを引き起こしました。
今でも商学部の定番テキストになっているのですが、実は講演から数年後に息子が関西大学に入学。「テキストにお母さんのことが書いてあるけど」と(笑)。母校に少しでもお役に立つなら、と引き受けたことでしたが、まさかこんな未来につながっているとは思いませんでした。
Tomoko Kawakami(左)
早稲田大学ビジネススクール教授。1965年生まれ。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)に入社、基礎研究所で新製品開発・マーケティングに従事。関西大学教授を経て、2015年より現職。
Rie Nakamura(右)
出前館 代表取締役会長。1964年生まれ。リクルート、ハークスレイを経て、2001年に夢の街創造委員会(’19年に出前館に社名変更)の取締役就任。’02年より社長。’20年より現職。