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2020.09.12

【中田英寿/に・ほ・ん・も・の外伝】地元の食材で育てた幻の鶏「天城軍鶏」<静岡編⑥>

2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。

にほんもの外伝

軍鶏は気が弱いから喧嘩っ早い

天城軍鶏のしっかりとした歯ごたえと濃縮な旨味にほれ込む料理人が多いというが、今は生産する人が少ない。伊豆市の狩野川の瀬音が聞こえる山あいの川岸に、天城軍鶏を育てる堀江利彰さんを訪ねると、薄暗い鶏舎は、これまで見たものよりもはるかに“鶏”密度が低いように思えた。

「1羽あたりの広さは、普通の鶏舎の3〜4倍あると思います。なるべくストレスのかからない状態で、期間も4倍くらいをかけて育てていきます」

堀江さんは、この地で養鶏を営む三代目。父の代まではブロイラーがメインだったが、現在は“幻の鶏”と呼ばれる天城軍鶏だけを生産している。

「ブロイラーの時代は、月1万羽を出荷しても借金が増えるばかり。そこで天城軍鶏にどんどん切り替えて、現在は800〜1000羽の出荷でも経営できるようになっています。出荷量を増やすことよりも肉質をいかによくするかということを考えるようにしています」(堀江さん)

にほんもの外伝

出荷前の軍鶏を近くで見せてもらうと、いかにも気が強そうな顔つきでかなりの迫力がある。

「軍鶏って喧嘩っ早いというイメージがありますが、実際にそうなんですか?」(中田英寿)

「攻撃性が強いのは間違いないですね。鶏舎を暗くしているのも、明るいと互いの足を狙って攻撃するからなんです。ただ気が強いというわけではなく、むしろ弱いから喧嘩する。自分のテリトリーを守るという意識で攻撃を仕掛けるようです」(堀江さん)

与える飼料は、地元産のもの。静岡県内の米、天城名物のわさびの葉や地元の豆腐店でわけてもらう豆乳など。豆乳を与えることで筋肉量が増え、脂がクリーム色の上質なものになるそう。試行錯誤の上で、現在の配合にたどり着いた。

にほんもの外伝

「ぜひ食べていってください。料理人の方にもここで食べて味を確かめてもらうんです」(堀江さん)

もちろん遠慮なくいただくことにする。堀江さん自ら天城軍鶏を炭火でじっくりと焼いていく。

「肉質を把握するために肉処理も自分でやるようにしています」(堀江さん)

伊豆の塩だけで味付けされたモモ肉を中田が食べる。

「ああ、おいしいですね。しっかりとした歯ごたえがあるけど、けっしてかたすぎない。かむたびに旨味がじわっと出てくる感じです」(中田)

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脂がすっきりとしているため、濃厚な旨味に飽きることなくずっと食べ続けていられる。続いて、胸肉が登場。こちらもモモ肉に負けず劣らず絶品の味わいだ。

「ブロイラーのぱさつく肉質とはまるでちがうでしょう。一般的には胸肉は安価で取引されるんですが、うちではモモ肉と同じ値段です」(堀江さん)

生産量が限られているため、そうそう出合える鶏肉ではない。だがこの鶏肉は、探してでも食べに行く価値がある。ちょうど夕刻。川のせせらぎを聞きながらのんびりといただく天城軍鶏は、最高にぜいたくな気分にさせてくれた。

「に・ほ・ん・も・の」とは
中田英寿が全国を旅して出会った、日本の本物とその作り手を紹介し、多くの人に知ってもらうきっかけをつくるメディア。食・宿・伝統など日本の誇れる文化を、日本語と英語で世界中に発信している。2018年には書籍化され、この本も英語・繁体語に翻訳。さらに簡体語・タイ語版も出版される予定だ。
https://nihonmono.jp/

中田英寿
1977年生まれ。日本、ヨーロッパでサッカー選手として活躍。W杯は3大会続出場。2006年に現役引退後は、国内外の旅を続ける。2016年、日本文化のPRを手がける「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。

COMPOSITION=川上康介

PHOTOGRAPH=淺田 創

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