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2020.04.14

アフターコロナの世界を見つめるパリの人気レストラン「デルソー」関根拓シェフの視線

新型コロナウイルスの拡大が世界を一変させている。3月17日からロックダウンがはじまったフランス パリの様子を、パリ在住のカメラマン、松永学がレポートする。

関根拓シェフ

世界中が沈みかけているタイタニック号に乗る仲間

関根拓さんは、パリで人気のレストラン「Dersou(デルソー)」のシェフ。過去に何度か取材撮影をさせていただきました。いつも料理に対しての姿勢が真剣でいて、とても興味深い人間性を持ち合わせている方です。

そのキャリアは、東京の「アラン・デュカス」等でフランス料理の基礎をみっちり学んだ後、パリで話題の「Saturne」や「Clown Bar」のようなレストランでさらに経験を積み、6年前、12区に「Dersou」をオープン。すぐに人気店となりました。パリで一番読まれているガイド、FoodingのBest Table 2016を得てからは、世界中で料理をする機会も与えられています。また昨年、「パリにアジアの食堂を作りたい」という彼の長年の夢を叶えた、アジア料理と自然派ワインの店「Cheval d’Or(シュヴァル・ドール)」を19区にオープンしました。

その関根さんが、今、新型コロナウイルスの治療にあたる医療チームへのケータリングを行っていると聞き、話をうかがうことに。なぜボランティアを行うのか、コロナが落ち着いたら世の中はどうなるか、日本について思うことを語っていただきました。

「閉鎖命令の前からすでにレストランを自主的に閉鎖するつもりで準備していました。重症患者、また医療機関の状況を考えると、レストランを続けることは大局の流れに逆らっているように感じたからです。最初はずっと家にいることにある種の戸惑いや不安を持ちつつも、前線の病院で24時間戦い続けている人たちは、きっときちんと食事すらとれてないだろうと想像しました。それからは周りの人と相談をし、病院に食事を差し入れようということになったのです。

サンドウィッチ

関根シェフのインスタより。医療従事者のためにつくったサンドウィッチ。

今、二つのオーガナイゼイションと一緒に、それぞれ2軒と1軒、週に合計3軒の病院に40食のサンドウィッチなり弁当なりを納めています。どちらの組織も複数以上のシェフを有していて、みんなでできるだけ多く食事を提供できるように協力しています。また、すべてのパン、野菜、果物、肉にはじまり、運送、パッケージング類も全て、自分たちの普段懇意にしている人たちにお願いして、病院に滞りなく食事を届けるシステムを作り上げました。つまりそれぞれが少しずつ自分たちの持っている分野を無償で提供するというやり方です。二つのオーガナイゼイションのうちの一つでは、ネット上で寄付を募り、食材を買って、それをシェフらが料理にするというやり方をとっています。

すでに3週間、この活動を続けていたところ、ある病院から『この騒動がひと段落したのちに, 病院に多数寄せられる寄付の一部を使ってレストランに医師たちを招待したい』と連絡がありました。もちろん快諾させていただきましたが、現在はさらにそこからすすんで、国民全体から寄付を募り、日々危険に身を晒している人たちを全国のレストランに招待するような取り組みができないかと模索しています。

ただ一点、特に戦争の前線にいる医療関係者の口に入る食事を担う者として、素人が気持ちがあるからというノリで活動をするのも、また大変危険なことだと思っています。こういった活動が、シェフの売名行為のツールになるようなことや、善意の押し売りのような形になることは非常に危険です。称賛されるべきは医療従事者なのですから。

コロナ収束後はどうなるか、まだその時を想像するには時期尚早と思いますが、現在、これだけ人々が引き離されている状況からして、やはりレストランとは”人と集まって食事をする場所”という感覚が強まるのではないかと思います。その上で、純粋な美食という部分がどこまで今まで通りのステイタスを貫くのかは疑問視しています。あるイタリアンの星付きのシェフは『今、とにかくお店が生き残れるようにいろいろ対策を立てている中で、来年ミシュラン一つ星や二つ星といわれるのはシャクだ』と言っていました。みんなが自由に外に出られること、そして人に会って食事ができること、そしてレストランという場所が存在できていること……今まで当たり前のこととして語りもしなかったことに感謝するような、ある意味健全な社会がやってくることを期待しています。

今までの世界はある意味、経済的にも物質的にも、多くの”超過”によって成り立っており、その文化的な高みと悪影響が共存しながら突き進んできました。言い方として適切ではありませんが、このウイルスの一つだけいいところをとれば、僕らにその事実を突き付けたことだと思います。生きていることの有り難さ、電車に乗って外に出かけられる楽しさ、友人とレスランで食事をすることの楽しさ、と言った具合にです。

2歳半の息子との料理をする様子やレシピを公開している。

関根さんのインスタより。2歳半の息子との料理をする様子やレシピを公開している。

フランスの大統領は早い時期からこのウイルスとの戦いを『戦争』という言葉を使って表現しています。今フランスの経済や保護というのは『戦時経済』という考え方です。この先どうなるのか、いつこのウイルスが収束するのか。交渉をする余地すらない敵に対して、政府はいち早く、将来の国民に期待をして、あらゆる企業、あらゆる個人を救済するという舵を切ってくれました。

もちろん、将来レストランというものが今までのような形で機能するのかは誰にもわかりません。さらにこの戦いは長期戦の模様を呈しています。それでも、フランスという国が国民を見殺しにすることなく、少なくとも生きていられる、だからいつかまたお店を開けて、料理ができる日が来たら、どんなことでもできるような気がしています。

今フランスの多くのシェフたちが前線にいる病院やホームレスの人たちに毎日料理をしているのも、この政府の姿勢があってのこと。フランスではSolidarité(手を差し伸べられる人が手を差し伸べる)という言葉をよく使います。今、数週間前に政府のとった『戦時経済』であるという判断が、この国の中であらゆる方面でいい循環を生み出しているのを国民一人一人が感じています。

ヨーロッパと法律も違えば、人種や社会の成り立ちも違う日本に同じ方法は当てはまらないかもしれません。ただ、今僕らは皆沈みかけているタイタニック号に乗る仲間です。そしてこれからどのような波がきて、どれだけこの揺れが続くのかもわかりません。僕にとって、自分の祖国、日本という船が大きく揺れているのを遠くから眺めることほど辛いことはありません。政府には是非とも意思の通った、透明な舵を後悔することのないように切ってほしいものです」

 

関根拓 Instagram: @taksekin

TEXT=松永学

PHOTOGRAPH=松永学

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