本田圭佑は、言葉を使うことで、自らをインスパイアし、世界にサプライズを起こす。その脳にはどんな言葉=「思考」が隠されているのだろうか。
ブラジル1部リーグのボタフォゴ に入団
これほどの歓迎を受けるというのは予想外だった。リオデジャネイロの空港に到着した僕を待っていたのは、2000人以上のボタフォゴサポーター。僕が彼らの前に出ると大歓声が上がり、なかには日の丸の旗を振っている人もいた。さらに本拠地のニウトン・サントス・スタジアムには1万3000人も集まり、またしても熱烈な声援を送ってくれた。人生であんな光景は初めてかもしれない。熱狂的な彼らの歓迎に、自然と力が湧いてくるような感覚になった。
フィテッセを退団してから約1ヵ月半、ここまでの道のりは遠かった。「本田は終わった」「選手としては賞味期限切れ」、いろいろなことを言う人がいたが、それも注目してくれていることの証し。そういう声があればあるほど、それを見返してやろうと力が湧いてきた。
焦りはなかったし、迷いもなかった。だが、目標としているオリンピックは半年後に迫っている。今の僕は、五輪代表に必要なプレイヤーであることを実戦で示す必要があった。いくつかのオファーがあったなかで決断の基準になったのは、どの選択が自分をさらに成長させてくれるのかということだった。
最終的にブラジル1部リーグのボタフォゴを選んだのは、一番厳しい環境だからだ。言うまでもなくブラジルは世界一のサッカー大国。国内リーグの熱狂ぶりはブラジル代表をもしのぐといわれている。空港での大歓迎は期待の表れだし、それを裏切るようなことがあれば彼らは容赦なく僕を叩いてくるだろう。これだけのプレッシャーを与えてくれる国は他にないと思う。
日本のサッカーを成長させてくれたのはブラジルだった。選手として、監督として、たくさんのブラジル人が日本にやってきて"本物"のサッカーを伝えてくれた。今のJリーグがあるのも、極端に言えば今の本田圭佑があるのも、ブラジル人たちがいてくれたからだ。そんなサッカーの国で選手としてプレイできることはとても幸せなことだし、できれば日本人を代表してブラジルに恩返ししたいと思っている。
ボタフォゴは昨年リーグ下位で、チームとしての変革を望んでいる。ここで力を発揮することができれば、チームはもちろん、自分自身も大きく進化するだろう。ブラジルリーグは若手主体だ。今年で34歳の僕がそのなかでプレイするという経験は、オリンピックに出た時にも必ず役に立つはずだ。
日本、オランダ、ロシア、イタリア、メキシコ、オーストラリア。7ヵ国目にして、初めての南米。コンディションは常に維持しているが、試合に出るためにはさらに上げていかなければならない。僕を叩き続けるアンチの声もパワーになるが、やはり歓迎し応援してくれる人たちに応えたいという思いのほうが大きなパワーになる。王国でどこまでやれるのか。自分自身が一番、新天地での本田圭佑に期待している。