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2020.03.03

【松浦勝人】「平成になっても生き続けていた昭和の感覚が、いよいよ終わる」

matsuura

平成の終わりと、次の時代

今年の4月で平成という時代が終わり、新しい元号の時代が始まる。エイベックスは「世間」みたいなものにあまり左右されずにきた。世間の景気がいいからといって、音楽が急に売れるわけではないし、景気が悪いからといって、まったく売れないわけでもない。だから、昭和、平成という時代も強く意識することはなかったけど、不思議なことに僕とエイベックスは平成とシンクロしている。エイベックスが法人として創業したのは昭和63年で、その翌年から平成が始まる。昨年の平成30年に僕は社長を退任して、会長になった。これからの時代のエイベックスをつくっていく仕事に専念することにした。その翌年に平成が終わり、新しい元号の時代が始まることになった。

今は、若くして成功する経営者がたくさんいるけど、30年前は違った。それが、僕の場合、自分で言うのはものすごく居心地が悪いけど、世間的な基準から見れば、若くして成功したほうになると思う。大学生のうちに年収1000万円になっていたし、外車にも乗っていた。

同年代の経営者の知人がいるけど、みんなが成功したのは、僕よりもずいぶん後になってからだ。彼らから見ると、僕は「目指していた場所に先にいた人」に映っているという。平成の始まりに世に出て、それから30年、なんとか平成の終わりまでたどりつけたことは「よくやったな」と自分で自分に声をかけたくなる。簡単なことじゃなかったし、苦労もしたし、努力もした。いい気になって大失敗をしたこともあったけど、なんとか乗り越えてきた。それが僕にとっての「平成」という時代。

でも、僕の意識のなかでは僕は「昭和の人間」。昭和生まれだし、いろいろなものを吸収した子供時代、学生時代は昭和だったわけだから。そういうたくさんの昭和の人間が、平成という時代をつくってきた。だから、平成が終わるということは、昭和もひっくるめて終わる感じがする。平成になってもまだ生き続けていた昭和の感覚が、いよいよ本当に終わる。

新しい時代が今までと決定的に違うのは、拡散の速度。昔は地球の裏側で起きたブームが波及してくるまでに数年、数ヵ月かかった。それが昭和にテレビが登場して、数週間、数日になり、平成にインターネットが登場して、数分、数秒になり、タイムラグはほぼゼロになった。

エイベックスにARPというグループがいる。AR技術を使って生成されたバーチャルなキャラクターのグループで、アニメのキャラのような見た目なのに喋って、歌って、踊る。イベントではリアルタイムでファンと会話もする。声は声優が担当しているけど、例えばダンスはダンサーが担当し、その動きをキャプチャーして動かすとか、表情はエンジニアが操作するとか、ひとりのキャラクターをそれぞれ最高の技術を持ったプロが担当することも可能になる。このをARPデビューさせたら、海外の企業がすぐに反応してきた。これをきっかけに、海外への進出もありえるかもしれない。

AR技術を使うと、映画、アニメ、音楽の境目がどんどんなくなっていく。さらには、ゲームとも融合していく。すでに社内でプロジェクトが進行しているので、ものすごくぼやかしてしか紹介できないのが残念だけど、ゲームみたいな映画がつくれるようになる。

RPG(ロールプレイングゲーム)のようなゲームでは、シナリオはひとつではなく、プレイヤーの行動によって、どんどん枝分かれしていく。映画でもそのような膨大なサブシナリオを持ったコンテンツを、短期間でつくれるようになっている。つまり、1回見たら終わりではなく、何回見てもストーリーが変わっていく映画が生まれる。

アニメ、映画、ゲームは人気が出ても、次回作をつくるのに2年はかかる。ファンは、その2年の間に忘れてしまう。一番ビジネスになるタイミングなのに、提供するコンテンツがないというのが平成までだった。でも、さまざまな技術を使えば、最初から大量のサブコンテンツを含んだ作品を提供できる。ファンは、ひとつのコンテンツを何回も繰り返して楽しみ、ずっとその世界に浸ることができる。

ただ、そういう技術はエイベックスだけでなく、他のエンタテインメント企業だって利用するだろうから、世の中には今までにないほどの大量のコンテンツが、短時間で一気に供給されるようになっていく。結局、そのなかで人気を取れるのは、ごく一部でしかない。

じゃあ、どうやって消費者に選んでもらえばいいのか。平成の半ばまでは、音楽でいえば、CMやドラマのタイアップをとり、シングル3枚にアルバム1枚を1年で出すといった、僕のなかでの方程式のようなものがあった。それがもう通用しない。これからの時代は、新しいプロモーション方法を次々と考えていかなければならなくなる。誰も考えつかなかったやり方を採用したコンテンツが受けて、でも次は同じ方法ではだめで、また別のやり方を探すことになる。

ものすごく大変な仕事になると思うけど、よく考えたらアーティストの世界は昭和の頃からずっとレッドオーシャンだったのに、そのなかで、新しいアーティストを世に送りだすことをエイベックスはずっとやってきた。 

新しい時代のことを語っているけど、本当にそうなるかなんて僕にもわからない。ただ、新しい時代にものすごく昭和的なことをやったら受ける、ということもあり得るのが今。いろいろなことがぐちゃぐちゃになっていて、先が見えないからこそ、どうなっても大丈夫なようにしておかなければならない。そこで重要になるのが、ビジネスの真ん中にあるIP(知的財産権)。エイベックスはIPを生みだしていく企業にならなければならない。そこは間違いない。

平成の次の時代を、人はさまざまに想像する。暗い話をする人もいる。確かに楽観はできない。でも、暗い想像ばかりしていたら、本当に暗い時代になってしまう。新しい時代は楽しまなければいけないと思う。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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