PERSON

2019.05.22

マーベル・コミックス編集長 C.B.セブルスキー「マーベルの魅力はヒーローイズム、ヒューマニティ、ハート、ユーモア」<後編>

映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』が映画史に残るメガヒットを記録する中、GOETHEではマーベル・コミックス編集長C.B.セブルスキー氏にインタビュー。後編では、これから注目のスーパーヒーローや時代とともに変化するコスチューム、いまの時代にコミックスが果たす役割などについて聞いた。

C.B.セブルスキー氏

多彩で個性的なヒーローが誕生

「マーベルで最も好きなヒーローは誰か?」と聞かれることがあります。編集長という立場上、「すべてのヒーローを平等に愛しています」と答えるべきなのかもしれませんが、私にも好きなキャラクターがいます。読者と同じ、人間ですから。

最も好きなキャラクターは、X-MENのダニエル(ダニ)・ムーンスターです。彼女は動物とテレパシーでコミュニケーションをとる能力を持っています。私は猫を飼っていますが、何を考えているのかわかりません(笑)。ダニは優れたリーダーシップも備えており、ミュータントを保護し、彼らに能力の正しい使い方を教えます。そうした指導力に共感するとともに、憧れを抱きます。

最も好きなキャラクターは、X-MENのダニエル(ダニ)・ムーンスターです。

誇りに感じているという点では、ジェーン・フォスター(女性のマイティ・ソー)ですね。彼女は雷の女神として戦うヒーローであると同時に、自身の病気である癌にも立ち向かいます。私の家族にも癌と直面し、闘った人がいます。ジェーンの勇敢で、肯定的に癌を克服していく姿に、共感を覚えました。

ほかにも注目している女性ヒーローは、たくさんいます。新しいキャラクターでは、スパイダー・グウェン。アメリカでは彼女のコスプレがブームになっています。弁護士として活躍するシーハルクも人気が高まっていますね。映画『ローガン』で人気に火が付いたX-23も、応援しているキャラクターの一人。編集者時代に彼女の開発に携わったので、強い思い入れがあります。

こうした女性ヒーローとともに、マーベルでは日本人の女性クリエーターも活躍しています。例えば、グリヒルさん、タケダサナさん、白浜鴎さん。マーベルでは雇用の際に、出身地や国籍、人種などは一切考慮しません。ですから、日本人であることを意識して仕事をお願いしているわけではありません。あくまで作品のクオリティが素晴らしいためです。ただ、きちんと締切を守るのは、日本人らしいのかなと思います。

コスチュームは保守的になり過ぎてはダメ

女性ヒーローを描く際に、難しいと感じるのはコスチュームです。カッコよくセクシーであること、セクシャライズ(性的であるもの)することは別物。その微妙な線引きに注意しています。

かつて女性ヒーローのコスチュームは、大部分が肌の露出が多いビキニ型でした。読者のほとんどが男性だったため、「それでいい」という慣習ができてしまっていたのです。でも、現在のコスチュームはまず機能的であることを重視しています。そして、そのヒーローが持つ能力や性格をうまく表現しているものであることが重要です。

そのヒーローが持つ能力や性格をうまく表現しているものであることが重要です。

これはしかし、「女性ヒーローは肌を覆い隠すべき」という保守的な考え方を表したものでもありません。例えば、X-MENに登場するエマ・フロスト(ホワイトクイーン)というキャラクターがいます。彼女は美貌とセクシーさをパワーとして使っています。タイトなビスチェを着用し、ショートパンツを履き、お腹部分を露出しています。その容姿によって、男たちを虜にして操るのです。だから、エマ・フロストにとって露出の多いコスチュームは欠かすことができないものであり、ストーリー的にも理に適っています。

コミックはマーベルの心臓部

現在、マーベルにはさまざまな入口があります。映画やテレビドラマからマーベルに入る人もいるし、ゲームからマーベルを知る人もいます。ファッションからマーベルのファンになるという人も多く見られます。その中で、コミックの果たすべき役割は何か? 私は、これをマーベルという人間に例えるならば、心臓にあたると考えています。

マーベルは、もともとコミックから始まりました。そのコミックが心臓のように全身に血液(ストーリーやアイディア)を送ります。映画を制作するマーベル・スタジオは、頭と顔にあたる部分。初対面の人に会ったとき、やはり顔に目が行きますよね。それと同じように、現在では映画がマーベルへの入口として重要な役割を担っています。腕の部分はゲームやアニメーション、脚はコンシューマ・プロダクツ(商品ライセンス部門)という感じ。それぞれの部門が活発に活動し、そして新たなアイディアやストーリー、キャラクターを生み出すことで、全身に血液として循環し、成長していきます。マーベルでは各部門が、互いの仕事に対して強い敬意を払っている。映画の制作スタッフにはコミックのファンが多いし、コミックのスタッフは映画の公開を楽しみにしています。素晴らしいアイデアに対しては部門問わず、どんどん取り入れていくことも珍しくありません。

映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、予想をはるかに上回る最高の出来でした。まだ作品を見ていない人も多いでしょうからネタバレは控えますが、映画では私がマーベルの魅力と考える「4つのH」が見事に融合されていました。4つのHとは、ヒーローイズム、ヒューマニティ、ハート、そしてユーモア。4つのHのバランスが最高で、笑ったり、泣いたり、怒りを感じたり、安堵したり。3時間にわたって感情の旅を満喫しました。

『アベンジャーズ / エンドゲーム』

現在、大ヒット公開中の『アベンジャーズ / エンドゲーム』 ©Marvel Studios 2019. All rights reserved.

もし私が特殊能力を得るとしたら、どんなパワーがいいか。もちろん、「空を飛ぶ能力」ですね。仕事で世界各国を旅しますが、いつも空港での待ち時間の長さにうんざりします。空を飛べれば、もっと多くの場所へ行けますからね。

いま行ってみたいのは、スコットランド、トルコのイスタンブール、モルディブ、セーシェル島。いずれもまだ訪れたことがないんですよ。私は世界の料理を味わうのが大好きで、個人的に食のウェブサイトを公開しているほど。空を飛べたら、サイトはさらに充実するでしょう。どんな能力を持ち、どのように使いたいか。そんな想像を膨らませるだけで、人生がぐっと楽しくなります。

 

C.B.Cebulski
アメリカ、ヨーロッパ、日本などで編集の仕事に携わった後、2002年にマーベル・コミックスに入社。編集者兼タレント・コーディネーターとして、世界中から才能ある人材を発掘。アベンジャーズ、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー、スパイダーマン、アイアンマンなど、マーベルのキャラクターをベースにしたオリジナル・コミックスの制作にあたる。2011年には、国際開発とブランド管理担当バイスプレジデントに昇進。毎月のように世界各国を訪ね、新興市場と既存市場の両方でマーベルのクリエイティブ事業を拡大した。2017年にはマーベル・コミックス編集長に就任し、マーベル出版部門における編集およびクリエイティブを統括している。「食」への関心も強く、世界各国で堪能した食の体験を自身のウェブサイトEatakuで公開。

※マーベル公式サイトはこちら
※映画『アベンジャーズ』公式サイトはこちら

TEXT=川岸 徹

PHOTOGRAPH=太田隆生

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