サッカーにビジネスにファッションに、そして何より己の人生そのものを貪欲に追求し続ける勝負師。それが本田圭佑だ。常に"カッコよく"あることにこだわるその生き様には、自分の限界を超え、高みを目指し続ける真の男としての美学が映しだされている。
「家族に対してもカッコつけていたい」
本田圭佑は、365日24時間、本田圭佑だ。カッコよくいるということに、とことんこだわる。専属の美容師を2〜3週間に1回、日本から所属先のモスクワやミラノまで呼んでいたというのは有名な話だが、そのこだわりは家の中でも実践されている。
「僕、家の中でもちゃんと服をコーディネイトして、毎晩寝る前に髪をセットするんですよ。それで朝グチャグチャになるから、またシャワーを浴びてセットする。それが自分ルール。家族に対してもカッコつけていたい。男にとって中身が重要なのと同じで、見ためも自分自身を表現する要素。どんな時でも手を抜くことはできません」
コーディネイトとして、家の中で腕時計をつけることもあるというからさすがだ。ユニフォーム以外では、タイトなスーツをクールに着こなしている印象が強い本田だが、やはりスーツは彼にとっての勝負服なのだろうか?
「勝負服というより、スーツをきちんと着る人が少なくなっているから、目立つなと思いながら歩いてはいます(笑)。勝負だからこれを着るという感覚は、あまりないですね。どんな服でも気分次第で、勝負服になるんじゃないでしょうか」
もともとファッションへのこだわりが強かった彼だが、スーツの着こなしが板についてきたのはミラノ時代のように思う。ミラノで過ごした3年半は、彼のファッションにどんな影響を与えたのだろうか?
「影響というほどではないですが、イタリアに行って驚いたのは、スーツを着る時にベルトをつけないこと。それだけピッタリに仕上げるし、着る側も体型を変えない(笑)。それくらい皆がファッションにこだわっているということなんでしょうね。ミラノ時代は、ファッションよりも食の影響が大きかったかもしれません。3年半飲み続けたので、エスプレッソには結構うるさくなりました。あとはパスタかな。ワールドカップの時は、チームシェフに、パスタにオリーブオイルを少しだけつけてもらうシンプルなやつをリクエストしていました」
サッカーを離れた本田は、明るく朗ほがらかで、よく喋り、よく笑う。話していて感じるのは、大阪出身らしいサービス精神。周りの目を自然と意識しながら、その期待に応えたり、敢えて裏切ったりしながら、その反応を楽しむ。
「腕時計も最近は1本でもいいかなと思うんですが、そうすると皆から『どうして今日は1本なんですか?』って聞かれる。だからやっぱり両腕につけなきゃなと。でもどっちも時間が合ってないこともある。両手につけているのに、スマホで時間を確認したりします(笑)」
常に注目され、発信力が強すぎるがゆえに誤解されることもあるが、彼ほど「みんなを楽しませよう、ハッピーにしよう」と考えているサッカー選手はいないのではないだろうか。そのサービス精神は、ワールドカップ後の彼の進路選択からもうかがいしることができる。
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「面白い挑戦」は、メルボルン入団?
7月に行われたインタビューの時から、移籍先はオーストラリアのメルボルン・ビクトリーFCが最有力だとスポーツ紙などでは話題になっていた。そこで次の所属先について質問したところ、本田は「まだ正式には決まっていないけど」と前置きしつつ、こう答えた。
「本田は面白い挑戦をしたなと思ってもらえると思いますよ。今まではワールドカップだけを目指して、サッカーをやってきた。その情熱の中身はこれから変わることになると思います」
その目には、秘密を話したくてウズウズしている子供のような茶目っ気が潜んでいた。メルボルンはAFCチャンピオンズリーグ常連の名門チームではあるが、「面白い挑戦」かといわれれば疑問が残る。もっと、誰も予想していない意外なチームを選ぶのではないだろうかと、その動向が気になっていた。
しかし8月に入ると、メルボルン入りが正式に発表される。メルボルンを選んだ理由については、インタビュー後にこうコメントを寄せてくれた。
「一番の理由は、マスカット監督です。ワールドカップのあと引退も考えましたが、監督と何度かビデオミーティングをするなかで彼の情熱や野心を感じ、考えが変わりました」
名古屋グランパスエイトでデビューし、VVVフェンロ(オランダ)、CSKAモスクワ(ロシア)、ACミラン(イタリア)、CFパチューカ(メキシコ)と、これまで5チーム5リーグ5ヵ国でサッカーをしてきた本田。メルボルンは、32歳の彼が選んだ6チーム6リーグ6ヵ国目のチャレンジだ。おまけに彼は、2020年の東京オリンピックでオーバーエイジ枠での出場を目指すことも公言している。
「自分が生まれ育った国でオリンピックが開催されるのであれば、やはり出てみたいと思うじゃないですか。あと2年間現役を続け、情熱を注ぐだけの価値があると思っています」
ワールドカップという目標を失っても、サッカー選手としての情熱は消えていない。まさしく無限のバイタリティといえるだろう。
後編に続く