注目の女性アスリートを紹介する新企画。第2回目は、24歳の元テコンドー選手の美女ゴルファー。
試練にも屈せず立ち上がる、まるで”だるま”!?
色白の肌に優しい笑顔。一見すると清純さ漂う乙女のように見えるが、実はテコンドー家に生まれたサラブレットだという。
名前はイ・セヒ。父は1985年テコンドー世界選手権で金メダルを獲得した有段者で、母は韓国陸軍士官学校で教官を務めた元テコンドー選手。5人兄妹の2番目に生まれイ・セヒは、「子供の頃は学校か終わると、一目散に両親が経営していた道場に向かい遊んでいた」テコンドー少女だったいう。
そのまま続けていればオリンピック出場も夢ではなかったかもしれないが、彼女が選んだのは足技を競う格闘技ではなく、手にクラブを握ってスコアを競うゴルフのほうだった。
引退後は大学のテコンドー学科で教鞭に立っていた父がフロリダ大学に派遣されたことを機に渡ったアメリカで、ゴルフに出会ったイ・セヒは語る。
「父が友人からゴルフクラブをプレゼントされたのですが、そのまま放置していたんですね。代わりに私がそれを握ってゴルフを始めたのですが、とても楽しくて。ゴルフバッグを持って、かっこよくボールを打つゴルフが、とてつもなく自由に見えました」
ゴルフに興味を持ったイ・セヒは、韓国へと戻ったあともプロへの夢を順調に育み、2016年にはKLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)ツアーの準会員として入会することに。翌年には晴れて正会員としてプロとなり、2017年からはKLPGAツアーの2部ツアーに相当するドリームツアーでその腕を磨いた。
昨季2020年シーズンには、2部ツアーながら賞金ランクキング4位に食い込んでいる。その成績もあって今季からKLPGA1部ツアーに昇格しているが、彼女に浮かれた様子はない。
むしろ華やかな1部ツアーの雰囲気とは対照的なほど、慎重に映るときがあるほどだ。
それは2019年に経験した失敗と反省とも無関係ではないだろう。
七転び八起きで、高みを目指す
2019年10月に行われたジャパンプツアー最終戦。優勝争いを演じていたイ・セヒだが、スコアを誤って過少申告してしまい、失格になる大失態を演じたことがあった。このミスの影響でドリームツアー上位20位までに与えられる1部ツアー昇格を目前で逃す苦い経験を味わっているのだ。
彼女は当時のことをこう振り返っている。
「私がきちんと確認できていなかったことが原因でした。失格となって試合会場を後にしてソウルへ戻る車中でずっと泣き続けていました。クルマの中だけではありません。その日から4日間はずっと泣いていたような気がします。ショックは大きく、ゴルフを辞めようと思ったほどでした」
実際、2020年シーズンは背水の陣で挑んだ。1部ツアーに昇格できず5年連続して2部ツアーに甘んじるなら、選手生活にピリオドを打ち、アメリカでスポ―ツ心理学を学ぼうとも思っていたらしい。
それだけにラストチャンスとして臨んだ2020年シーズンに結果を残し、今季から念願の1部ツアーでプレーできる喜びを強く噛みしめているという。
「何もかも諦めようと思いましたが、多くの方々が応援してくださった。再びゴルフクラブを握るまで多くの紆余曲折がありましたが、テコンドー世界選手権の金メダリストである父の助言も大きな支えとなった。おかげで後悔なくゴルフに臨めたし、今を楽しめています」
KLPGAツアーの2021年シーズンは5月25日現在、メジャー大会1回を含む5試合を消化しているが、イ・セフィの最高成績は4月の『ネクセン・セイントマスターズ2021』での30位で、3試合で予選敗退を味わっている。
ただ、24歳になった元テコンドー娘は自らを「オトゥギ」と名乗るほど打たれ強い。オトゥギとは日本語で翻訳すると「だるま」という意味だが、そこには試練にも屈せず立ち上がり、着実に階段を上ってきた自身のゴルフ人生への自信と信頼も込められているのだろう。
「ゴルフファンにどう呼んでもらいたいか」という韓国メディアの質問にも、ためらうことなく「オトゥギ」と答えているイ・セヒの七転び八起きは、まさにこれから始まるのかもしれない。