京都人も知らないスポットは意外とある。山の上の大学が授業の一環として造った能舞台や茶室もそんなひとつ。市内を一望できる絶景の場をご覧あれ! 【特集 京都の秘められしスポット】
京都芸術大学の山の上に佇むとっておきのスポット
京都芸術大学は、多彩な講師陣と学科、伝統を踏まえつつも最先端の学びを追求することで知られる大学。学生の年齢層や出身国も多様で、学生数1万8000人を超える国内最大規模の芸術大学だ。
瓜生山(うりゅうやま)の斜面を活かした高低差のあるキャンパスの頂ともいえる松麟館屋上にあるのが、野外能舞台とその鏡の間「楽心荘」、茶室「颯々庵(さつさつあん)」。京都市街を見渡せる、知る人ぞ知る絶景処だ。
野外能舞台や「楽心荘」は、舞台芸術学科の授業でも使われる実習の場。観世流能楽師や大蔵流狂言師、京舞井上流の師匠が授業を行うこともあるというから、さすが「京都の大学ならでは」の学びといえる。
毎年5月には客を招き、「瓜生山薪能」がこの舞台で開催される。日が陰りあたりが暗くなると松明(たいまつ)に火が灯され、能楽の幕が上がる。眼下に見下ろす京の夜景の美しさも相まって、幻想的な舞台になるそうだ。
能舞台の北側にある茶室「颯々庵」もまた、貴重な建築である。旧三和銀行京都支店の4階にあった茶道裏千家14代家元・淡々斎宗匠好みの茶室を大学に贈呈することになり、「千秋堂」を建て、その1階に移築したのだ。床や柱といった建材だけでなく、土壁もいったん落として運び、もう一度この場で塗り直したというから、その再現度はほぼ100%。淡々斎宗匠直筆の掛け軸や花入なども同時に贈呈され、大切に保管されている。
現在、この茶室はさまざまな伝統文化や芸術を学ぶ教育の場となっている。「楽心荘」や「千秋堂」には学生以外は立ち入ることができないが、松麟館屋上は、実は一般の見学も許される場所。近代的な能舞台や趣ある建物に接し、日本文化の香りを感じてみたい。
実際の松を活かした自然と一体化した天空の能舞台「楽心荘」
1987年に大学創立10周年を迎え、その記念として翌年に竣工したのが、野外能舞台とその鏡の間である「楽心荘」だ。当時、教員だった能楽師・故観世榮夫氏が監修し、建築された。野外にもかかわらず屋根がなく、4本の鉄柱とそれを結ぶ鉄骨のみという画期的な舞台。
学内にある劇場「春秋座」や「studio21」とともに、舞台空間の演出や自然と一体化する古典芸術を学ぶ、大切な場になっている。
楽心荘(Rakushin-so)
場所:京都芸術大学松麟館屋上
※薪能は学生、関係者のみ鑑賞
清々しい風が吹く凛と美しい近代の名茶室「颯々庵」
1960年に釡開きをした「颯々庵」は、「市中の隠」といわれた名茶室。旧三和銀行が解体されると決まった時に、保存が望まれ、裏千家より大学に寄贈されることになり移築された。大学側は外壁のないこの茶室を受け入れるために、瓜生山の頂に「千秋堂」を建築。2008年4月に、贈呈式と茶室被きが行われた。数寄屋の建築、道具や茶人の所作など、本物の伝統文化に触れられる貴重な場所である。
颯々庵(Satsusatsu-an)
場所:京都芸術大学松麟館屋上
※現在は感染症対策のため、関係者以外の入構は不可