2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。今回の旅は2月に訪れた大分県。
日田ならではの水がおいしいビールを生み出す
大分県日田市は、福岡県、熊本県と県境を接する九州の“へそ”のような位置にある。林業が盛んで日田杉は秋田杉・吉野杉と並んで日本三大杉林に数えられ、また歴史的に江戸幕府の直轄地として「天領」として栄えた古い町並みにいまでも当時の面影を見ることができる。
四方を阿蘇九重や英彦山に囲まれた盆地の中腹で、日田の街を一望できるのがサッポロビールの九州日田工場。ヱビスビールやサッポロ生ビール黒ラベルなど多くの主力商品がこの工場で生産され、西日本を中心に出荷されている。
「この工場ができたのは2000年。今年でちょうど20周年になります。この地は、位置的に物流に便利な場所ということもありますが、なにより「水郷(すいきょう)ひた」と評される良質な水があり、ビールづくりには最適。工場見学なども行っているので観光地として年間20万人以上のお客様がいらっしゃいます」(サッポロビール九州日田工場 醸造部 部長 松本さん)
これまで地ビール的な小規模の工場はいくつか見学してきた中田英寿だが、これほどの大工場を訪ねたのは初めての経験だ。しかし規模が大きいからといって、造り方、造り手の思いが変わるわけではない。
「ヱビスビールは、1890年に『世界一おいしいビールをつくりたい』という思いで開発されたと言われています。当時も現在もビールの本場であるドイツから、原料や設備はもちろん、醸造技術者まで集めたそうです」
工場を見学していても、原料へのこだわり、きめ細やかな発酵管理、鮮度の管理など、並々ならぬ思いが伝わってくる。
「ヱビスビールは低めの温度で穏やかに発酵させます。そうすることでまろやかさが生まれます。飲み飽きることのない味、すなわち、しっかりとしたコク、その上で気持ちよく消えていくのどごし、美しい余韻を持つ華やかな香り。すべてがヱビスビールならではのものでなければと思っています」
「昔から味は変わっていないんですか?」(中田)
「いえ、味は常に磨き続けています。ヱビスビールの世界観を変えないように、よりおいしいもの、時代が求める味を探求しています。ヱビスビールは、サッポロビールの社員にとっても“誇り”を感じさせる商品。造り手としても緊張感があるんです」
伝統の技術と造りつくり手の熱い思い、そして日田ならではの水がおいしいビールを生み出している。工場内ではあちこちでフレッシュなホップのにおいを感じることができた。広い工場を見学したあとは、敷地内のレストランで出来たてのビールを! と思っていたが、あいにくの休業日。それを知ったとき、それまで以上にのどが乾いた気がした。
「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん”の”ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/