「研究者魂 経営者脳 ~iPS細胞実用化を目指して~」Study5

研究者が自分の研究成果を一般の方にわかりやすく、正確に伝えることは、とても大切なことです。しかし、研究者は「どう伝えるか」というトレーニングをあまりしません。私は、アメリカ留学時代に初めてプレゼンテーションをきちんと習ったことで、伝えることの重要さに気づきました。私の人生にとって大きな収穫で、当時学んだことは今でも役に立っています。

Study5「人に伝えるための密かなるトレーニング」
「正確」と「簡単」の狭間でいつも苦慮しています

ここ数年、少なくとも週に1回は多くの人の前で話をする機会があります。一般の方に話をする時は、聴き手に合わせた内容になるよう心がけていて、当日、会場の様子を見てからスライドを変更することもあります。専門用語の羅列は聴く気が失せてしまいますから、極力使わないようにしていますが、正確さを欠くわけにはいきません。相反する「正確」と「簡単」の狭間でいつも苦慮しています。

(C)京都大学iPS細胞研究所 The New York Timesの取材を受けました。最初の論文発表から10年が経ち、iPS細胞研究の進捗についてお話しました。

人への話し方、伝え方を自分ひとりで改善するのは難しいので、今でも一般の方に向けて話す時のトレーニングを受けています。自分が気づいていなかった癖や精一杯やっていることに対して人から意見されるのは怖いものです。しかし、立場が上になるほど、周りから指摘されることは減りますし、こうしたトレーニングによって自分に挑戦することが大切だと思っています。アドバイスのなかでも「ゆっくり話す」「動きを加える」というのは、何度も練習したことで、今では自然に出来るようになりました。とはいえ、まだまだ自分で納得できるような話し方ができているわけではないので、続けていきたいです。

目の前にいる人だけでなく、メディアを通じてCiRA(※1)でどのようなことが行われているかを伝えるのも所長である私の役目です。インタビューや記者会見では慎重に言葉を選んで話しています。多くの方に期待していただいている研究ですので、今後も正確にわかりやすく透明性を持ち、研究内容をお伝えしていきたいと思っています。

※1 CiRA[サイラ]:iPS細胞研究所(Center for iPS Cell Research and Application)の略称


山中伸弥の今月のひと言。
京都マラソン2017を無事に完走することができました。記録は3時間27分45秒で、今回も自己ベストを15分以上更新できました。iPS細胞研究基金にご支援くださった皆様、沿道から声援をおくってくださった皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
 皆様からのご寄付は、研究環境の整備や研究支援を担う人材の確保などに役立てさせていただきます。

Illustration=松本孝志

*本記事の内容は17年2月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)