滝藤賢一の映画独り語り座 Vol.02

今月の1本は『博士と彼女のセオリー』

感動ラブストーリーと思ったら大間違い!
男心を掴む渋みがある!

この号が出る頃には結果が明らかになっているアカデミー賞。頼まれてもないのに僕も予想をしてみました。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を除く候補作4本を観て、僕が“The Oscar Goes To...”と主演男優賞を指名するなら迷わず、『博士と彼女のセオリー』のエディ・レッドメイン。感情、肉体ともに表現が素晴らしく2回も観ました。

エディが演じるのは実在の宇宙物理学者、スティーヴン・ホーキング博士。徐々に身体の自由が利かなくなる「運動ニューロン疾患」の宣告を医師から受ける場面が印象的でした。『象の背中』という映画で役所広司さんは癌の宣告を受けた時、“笑う”という表現をしていて驚いた記憶がありますが、本作は余命2年と告げられた時、医師から目線を外さず、淡々と見つめ続ける。それだけで気持ちを想像させるんですよ。もし僕が演じたら、呼吸と目線を外し、驚いたような表現をしてしまうかも。でも、それは感情の説明であり固定観念でもある。僕自身、過剰な表現をしないという原点に立ち戻るべきだなと思いました。

妻との関係性も見どころです。友人を招いた食事会で、妻が生き生きと会話をする一方、自分はスプーンも自由に動かせない。思わず席を外すんだけど、ふと盗み見た妻は若く、弾けるように美しい。その心境を察すると、泣けました。

病気が進行して車椅子となり、ある日、妻が男性のピアノ教師を家に招き、子供に教えさせる。父としてできないことを他の男性がやるその居たたまれなさ。全身の筋肉の硬直が進み、エディは不自然な体勢を保ち、繊細な眼差しだけでその心境をビシビシ伝えてくる。最終的には妻への大きい愛を表す内容だと感じました。

病状が進行したシーンは目だけで演技をすると思われがち。でも全身で「動かない身体」を演じていることが凄まじいんです。細かく構築された役づくり。それを見事に達成しているエディにライバル心を刺激されました。俳優としての在り方を再認識させられた作品。やっぱり生涯修業だなぁ。

DATA
監督:ジェームズ・マーシュ
出演:エディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズ ほか
配給:東宝東和
3月13日よりTOHOシネマズ シャンテ ほか全国公開