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2024.08.16

毎日「納豆」を記録し続けたことで世界が変わった男の話

とにかく多忙な現代のビジネスパーソン。「仕事以外のことをする時間がない」「何をやっても三日坊主で終わってしまう」「新しいことを始めても長く続かない」と悩む人も多いだろう。仕事も仕事以外のことも、無理なく楽しく継続できるようにはどうすればいいのか。著名なブックデザイナーであり、「続けることが趣味」だと言う井上新八氏が、20年以上にわたって実験と検証を繰り返して確立した、具体的な習慣化のコツや「絶対に続けられる」日々の仕組みづくりを伝授する。『「やりたいこと」も「やるべきこと」も全部できる! 続ける思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、一部を抜粋・再編集して紹介。

納豆
unsplash/seiya-maeda ※画像はイメージ

「ふつうのこと」をただ記録する

今、毎日ふつうにしていることをただ記録するだけでも世界は広がる。

記録は世界を広げる入り口だ。例えば、食べているもの。わたしはずっと毎朝、納豆を食べている。そして、その毎朝食べている納豆の記録をはじめたら世界が少し変わった。

あるときスーパーの納豆売り場でふと思った。「あれ、納豆ってどのくらいの種類があるんだろう?」

同じスーパーでもだいた5、6種類くらいは違う納豆を売っている。別のスーパーに行くと、別の納豆を売っている。納豆、どのくらいの種類があるものなんだろう?

それを知りたくて、その日からできるだけ違う納豆を買って食べる生活がはじまった。そして忘れないように食べた納豆の記録をはじめた。

最初に記録した納豆。

2021年12月14日
「人形町今半 すき焼わりしたで味わう平家納豆」
甘いタレ。豆は美味しいけど朝単体で食べたら味が濃すぎて、これは単体ではきつい。ご飯にかけて昼に食べてみることに。昼、ご飯に乗せて食べた。なるほどこれはご飯が必須だ。卵を入れてもいいかもしれない、それこそすき焼きだ。

こんなふうに納豆の記録をはじめた。記録をつけはじめたらいろいろ発見があった。というより、納豆のことを自分が何も知らなかったことがわかった。

納豆には豆の種類がある。さらにメーカーや産地に特徴がある。パッケージにも個性がある。そして変わり種の納豆が無限に存在している。そういう発見だ。

大まかに言って納豆の違いは、「大粒」「中粒」「小粒」「極小粒」など豆の大きさの違いに、「ひきわり」「あらびき」など形状の違い、それからミツカン、あづま食品などメーカー別でかなりの商品数がある。また、大手の手がける納豆はタレの種類やトッピングの違いなどでかなりのバリエーションがあり、それだけでもかなりの数がある。

それにプラスして、デパートやオーガニック系の店では産地直送のこだわりご当地系納豆が売られていたりもするから、家の近所だけでもなかなか食べ尽くせない量が売られている。

最近はタレやトッピングに特徴のあるものが多くて、それが面白い。記録をはじめるきっかけになった「人形町今半 すき焼わりしたで味わう平家納豆」も、「すき焼のあとに納豆ご飯を食べたら美味しいのでは?」ってアイデアから生まれたものだろうとわたしは思っている。

ほかにも、ミツカンの「金のつぶ®︎バターしょうゆたれ 3P」のような変わり種のものや、「紀州梅が香るおろしだれ梅納豆」(あづま食品)のように、3月〜9月の間だけ売られている季節限定商品も存在する。

記録をつけはじめたことで、変化が起きた。毎日機械的に食べていた納豆が、記録を通して「楽しむもの」に変わった。記録として書いているポイントは、

・何個入りか
・豆の形状
・どんな付属品があるか
・粘り気や匂い、そして味の特徴

まず豆だけを食べて、その後タレを入れて混ぜて食べる。それを記録することでパッケージや入っているタレなどを観察する癖がついた。

記録することで観察力が高まる。メーカーの個性はどういうところに出るのか、どういうパッケージにすると高級感が出るのか、日常的に買いたくなる納豆のパッケージはどういうものか、そういうことに気がつくようになっていく。

「あれ? これははじめて見る納豆」なんて思ったら、中身は定番の「ほね元気」で、どうやら最近パッケージがリニューアルされたらしいと気づく。こういう変化は記録してないと気づかない。

好きなことが武器になっていく

「本格的」な納豆には、「タレ」や「からし」がついていないことが多いこと。それはこだわりの強いユーザー向けという演出なのかなとか、いろいろ考えるようになる。

そしていつのまにか「納豆」が自分の中で深まっているのを感じた。1年間記録をつけただけで納豆に対して話せることが自分の中で無限に増えていた。

1年前に納豆について何か話そうと思ったら、「納豆、毎日食べてますよ。健康によさそうじゃないですか、美味しいですよね」これで終わっていたと思う。

1年後は違った。たとえば、「本わさび納豆 信州安曇野産」(あづま食品)という納豆。

「納豆には『からし』じゃなくて『わさび』が正解ではないか?」とさえ思わせるこの納豆のインパクト。考え抜かれた醤油の味に、ねぎ香るわさびのバランス、フィルムを排した食べやすいパッケージ、何から何まで考え抜かれている。

この納豆の何がすごいかということを、ひたすら語ることができる。今わたしは納豆が好きになって、納豆を楽しんでいる。これはひとつの趣味の獲得だ。

今「趣味はなんですか?」と聞かれたら、「納豆ですね」と答えると思う。

雑談を盛り上げるには3番目にハマっていることの話をするといいらしい。ハマりすぎていることの話だと熱く語りすぎるけど、3番目ならちょうどいい距離感でそのことを話せる。会話を適温で盛り上げるのにすごくいいのだ。

わたしにとって、今納豆は「ちょうどいい」雑談のネタになりうる3番目の趣味になった。先日も飲み屋で延々と納豆の話をしていた(迷惑)。

「記録する」たったこれだけのことで、もしかしたら人生だって変わるかもしれない。

今ならそれなりの熱量で納豆を語ることができる。どこのスーパーでどんな納豆を扱っているか。どんなパッケージの納豆が美味しそうに見えるか。どんなことだって話すことができる。

たとえばわたしが食品業界への転職を考えていたら、これは大きな武器になるはずだ。たった1年、ただ「記録」をしただけなのに、じつはとんでもなく大きなものを手に入れたのではないかと思う。

「好きなことを武器にする」って案外こんなことなのかもしれない。どうしても「好きなことが見つからない」って人は、とりあえず普段やっていることの記録からはじめるのはどうだろうか。

朝ごはんで食べる米の量の記録とか、食べた昼ごはんの記録でも、なんでもいい。余計なことは考えず、ただ記録するだけ。ただそんなことを半年、1年も毎日続けたら、自然にメモする内容に変化が起きるはず。

記録し続けるうちに解像度は自然に上がる。そのうち自分だけの「好き」を発見できるかもしれない。

この2年くらい食べたポテトフライの記録をつけているけど、店名と値段と食感や塩加減を書いておくだけでも、やはり以前よりポテトフライへの解像度が高くなっていると思う。

記録するだけで「好きなこと」って意外に簡単に手に入れることができるかもしれない。少なくともわたしは「毎日、納豆を記録する」ことで、新しい「好き」を手に入れた。

TEXT=井上新八

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