南青山の一角に建つ、窓のないコンクリート打ちっぱなしの建物。それが、豪邸建築家として知られる森山善之氏が、今のライフスタイルを100%反映して設計した自邸だ。1階はテナントとして貸しだし、2階のリビングダイニングキッチンと私室となる地下1階をエレベーターでつないだ家は、構造から設備、素材にデザインまで、あらゆる所に森山氏のこだわりとセンス、建築家としての経験と知見が反映されている。立地を最大限に生かした、唯一無二の邸宅への想いを紐解く。【特集 多拠点邸宅】
1.外との接点
「目指したのは、快適なアウトドアリビング」
建築やデザイン関連事務所、家具・照明・キッチンなどのショールームが集うインテリア業界の中心地であり、飲食店も多い青山。その立地を生かし、2階は“仕事仲間との外食後に寛ぐラウンジ”をコンセプトに設計。
床から170cmの高さまでは壁にして外からの視線を遮りつつも、そこから上は高さ約4mのガラスルーフにしたのは、「家やビルが立ち並び、人の息遣いが感じられる。そんな街との接点を大切にしたかったから」と、森山氏。その言葉どおり、頭上いっぱいに空が広がる空間は、温度と湿度が快適に調整されたアウトドアリビングにいるかのような開放感だ。
「夜、照明を落とすと、自分たちの姿がガラスルーフに映るんですよ。なかなか見ない光景なせいか、ゲストはかなりの確率で写真に撮っています(笑)」。
ガラス素材のみだとかえって高さを感じられないからと、天井中央にコンクリートのスラブを設置。ペンダントライトの奥と手前、天井から右の壁へと伸びる黒いパイプは、なんと雨樋(あまどい)! 必要なものは無理に隠さず、カッコよく見せる。それも、森山流だ。
2.技術と設備
「この家は10年前なら実現不可能だった」
天井の大部分がガラスともなれば、気になるのは紫外線と温度の問題。「これ、特殊なガラスで性能が非常に高いんですよ。紫外線は100%、熱線も85%ほどカットしてくれるので、日焼けはもちろん室温が上昇しすぎる心配はありません。電動のロールスクリーンもつけましたしね」。
さらに、エアコンではなく、除湿性能も備えた輻射(ふくしゃ)式の冷暖房設備を導入。パネルに冷水や温水を循環させて室温を調整しており、冬も夏も快適な温度と湿度を保てるという。また、ガラスには光触媒コーティングを施しているため、基本的にはクリーニング不要。水滴もつかないとか。
「ガラスルーフとコンクリートの屋根は12本の4cm×15cmの細い鉄の無垢材で支えているのですが、この細さは今だからつくれたもの。10年前なら、難しかったでしょうね。設備や素材の進化はもちろん、それに対する僕や事務所スタッフの知識、つくり上げる技術などが進歩したからこそ、これだけ大きなガラスルーフの家が実現できたのだと思います」
3.生活の利便性
「僕にとってバスタブはリビングのようなもの」
“今の暮らし方”最優先で、ユニークな設計を施したのが、地下のプライベートルーム。ベッドのそばに洗面台とバスタブを設け、間仕切り代わりにトイレとシャワーブース、ランドリースペースを配し、奥は広々としたウォークインクローゼットという構成だ。
「僕にとって家は、その日の疲れを癒やし、翌日に備えてエネルギーをチャージする場所。帰宅したら、服を脱ぎ、ぬるめのお湯に浸かりながら動画を観るとか読書するなどで2時間くらい過ごしてから眠り、朝はシャワーを浴び、着替えをして出かける。こうした行為がスムーズに行えるようにと、このつくりにしました」。
バスタブには天然石の広い縁を取りつけて器なども置けるようにし、食事をとることも可能に。
4.空間との調和
「衣替えと同様に家具やオブジェを入れ替え」
「家の印象は、家具やオブジェ、グリーンなど、そこに存在するすべてが相まってつくられるもの。イメージに合わせ、空間に調和するアイテムを選ぶのが大切だと思います。
ただし僕の場合、好きなものを揃えすぎると、ここから一歩も出たくなくなってしまう。なので、セレクトは事務所専属のスタイリストに任せていますが、2階は人が集うラウンジということもあるからか、しばしば家具やオブジェの入れ替えがあるし、アートやグリーンも見直しています。ちょっとしたショールームですね(笑)」。
とはいえ、家具やオブジェが変わっても、常にこの家が纏う空気や質感になじむものがバランスよく配置されているのは、森山氏の好みに精通しているスタイリストならでは。
この記事はGOETHE 2024年3月号「総力特集:多拠点邸宅」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら