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2023.07.23

【脳科学者が教える】Z世代が動く、会話の最後に添えるだけの魔法の言葉とは?

日常の何気ないシーンに現れる成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説。今回は、いつの時代にもある「これだから、若い人は…」の現象について。 連載「何気ない勝者の思考」とは……

西剛志「勝者の思考」

Unsplash / Johan Godínez

前回は、若い世代(特にZ世代)をうまく生かせない上司は「相手が見ている世界と自分が見ている世界が同じ」だと錯覚しやすく、自分の考えを押し付けて若い人達の信頼を失っている可能性を伝えました。

しかしよく考えてみると「これだから、若い人は…」という現象は、今に始まった話ではありません。私が知る限り、1980年代に「新人類」という言葉が流行ったり、ずっと昔から続いていることです。では、なぜ、こんなことが起きるのか?

その秘密を紐解くために、今日はこんなことを考えてみたいと思います。

【勝者の思考】地位の高さは人を変えると思いますか?

(1)地位によって変わる人が多い
(2)変わらない

答えは(1)「地位によって変わる人が多い」が正解です。もちろん、変わらない人も一部いますが、多くの場合、自分が気づかないうちに変わってしまっていることが証明されています。

これは、自分の額に「E」という文字を書いてもらうという実験です。このとき、人は大きく2つのパターンに分かれます。

(1)自分から見て「E」字を書く(自分視点)
(2)相手から見て「E」の字を書く(他者視点)

(1)の人は、視点が自分中心の傾向にあるため、価値観を押し付けやすい可能性があります。一方、(2)の人は相手からの視点で物事を見ることができるため、相手の考え方を尊重する傾向があります。

そして、ここからが本題ですが、自分に人を動かすパワーがあると思っている人ほど、(1)のパターンになる人が増えやすくなることが、コロンビア大学ビジネススクールの研究でも報告されています (*1)。

具体的には、参加者を「思い通りに人を動かした体験」や「他者を評価した経験」を書き出してもらったグループ(高パワー保持群)と、「相手に指示された体験」や「他者から評価されたこと」を書き出してもらったグループ(低パワー保持群)に分けると、高パワー保持群のほうが圧倒的に(1)の選択肢を選ぶようになってしまったのです。

つまり、私達は地位や役職が上がり、自分にパワーを感じるようになると、視点が自己中心的になり、相手の立場を尊重しにくくなってしまう傾向があるのです。

若手の能力を伸ばす2つの要素

そこで大切なのが、謙虚さと柔軟性です。

以前お会いした、有名なプロゴルファーの指導者は、現役を退き指導する立場になってから思うように人が育たず、大変な苦労をしたそうです。

彼は3つの脳タイプのうち「視覚タイプ」(前回の記事を参照)。自分のプレーを見せたり、過去の映像から理論的に分析させる指導法に効果があると信じていました。

しかし、スランプにあった女性ゴルファーの日常のちょっとした会話で「説明書を読まない性格なんだ」という言葉を聞いて、思い切って従来の指導法を変えたそうです。

どう変えたのかというと、彼女がよいショットをしたとき、足や腕にどんな感覚があったのかをメモすることで、うまくいったときの体の感覚を覚えてもらうことにしたのです(しかも手書きでメモさせました)。すると、スコアがみるみる伸びていきました。

私達は年をとり経験を積むと、脳の性質でどうしても自己中心的になりがちです(認知バイアスの世界では、エリート効果とも言われます)(*2)。しかし、常に相手と自分の世界は違うと認識できる「謙虚さ」、そして指導法を相手に合わせる「柔軟性」を持てると、若手の能力が面白いように伸びることがあります。

謙虚さとやる気を高める魔法の言葉

そうはいっても、謙虚さと柔軟性を持つこと自体が大変!という人もいるでしょう。

しかし、私自身が100名を超える、いわゆる“できる”上司やリーダー、指導者を分析してきて発見したのは、彼らが人間性を高める「ある言葉」を使っていたことでした。

私も企業研修や、若い人の指導のときによく使いますが、その言葉を使うだけで謙虚さが生まれ、かつ、相手のやる気まで高まる魔法の言葉です。

その言葉は世界の研究でも実証されていますが、メッセージを伝えた後に、下記の言葉を添えるだけです。

「でも、それはあなたの自由です」

若い人達、特にZ世代が最も嫌うことの1つが「価値観の押し付け」です。

なぜなら、小さい頃から、インスタグラムやツイッターなどSNSで世界中の多様な生き方、価値観などに触れてきた今の若い世代は、価値観が複数あるのが当たり前で、1つの価値観を押し付けられることに大きな抵抗を感じるから。

この言葉を言われた側はやる気が高まり、伝える側も言葉(脳内トーク)によって影響を受け、謙虚になりやすくなります。

数々の研究でも何かをお願いするときに、最後に「でも、それはあなたの自由です(But you are free)」と添えるだけで、Yesの確率が2倍も高まることが知られています(*3)。

・「でも、最終的な判断はあなたに任せます」
・「強制的ではないのですが」
・「最後はあなたが望むように」

専門用語でBYAF法(But you are freeの略)と呼びますが、「伝えたいことは伝え、最終的な選択はあなたに任せる」この相手を尊重する態度が、人のやる気と信頼感を飛躍的に高めることが証明されています。続きは次回お伝えします。

過去連載記事

脳科学者・西剛志「勝者の思考」

西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上に講演会を提供。メディア出演も多数。著書に『世界一やさしい 自分を変える方法』『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』など海外を含めて累計31万部突破。

<参考文献>
(*1) Galinsky, A. D., Magee, J. C., Inesi, M. E., & Gruenfeld, D. H.(2006). Power and perspectives not taken. Psychological Science, 17(12), 1068-1074.
(*2) Piff, P.K, et.al. “Higher social class predicts increased unethical behavior”, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2012, Vol.109(11), p.4086-91
(*3) Christopher J. Carpenter A Meta-Analysis of the Effectiveness of the “But You Are Free” Compliance-Gaining Technique“,Communication Studies,Vol.64(1),p.6–17,2013

■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。

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TEXT=西剛志

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