知らぬ者が損をする。それが今の世の中だ。ことお金の話に至っては、これが如実に現れる。自身や家族を守り抜くためのお金の基本の“き”を、元東京国税局職員の小林義崇氏から学ぶ短期集中連載。第1回は2024年から制度が変わる「生前贈与」について。『元東京国税局職員が教えるお金の基本』から一部抜粋してお届けする。
ライフイベントに合わせて生前贈与を活用する
「自分のお金を増やす」という意味で、生前贈与の活用も視野に入れておきたいところです。両親などから財産を譲り受ければ、これを投資の運用資金にあてることができます。
このときに考えておくべきは、「贈与税」について。贈与があったとき、あげた人を「贈与者」、もらった人を「受贈者」といいますが、受贈者には贈与税がかかる可能性があります。
贈与税の計算方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つのタイプがあり、このうち原則的な方法が暦年課税です。暦年課税の場合、「年間110万円までの贈与は非課税」になるのですが、その金額を超えると金額によって10〜55%の税率で贈与税がかかります。ですから、まずは年間110万円以下の生前贈与から実行するといいでしょう。両親が元気なうちにこれをコツコツと行うことができれば、もしもの事態に備えることができます。
そして、年間110万円を超える生前贈与を受けるのであれば、贈与税の特例を使えないか検討してみましょう。本書で詳しく解説はしませんが、以下のようなライフイベントに合わせて生前贈与を受けることで、贈与税の非課税枠を増やすことができます。
・住宅取得
・教育
・結婚
・子育て
親に対して生前贈与の話をもちかけるときは、「相続税対策」として生前贈与が有効であることを伝えておくといいかもしれません。
相続税は、相続財産の金額などに基づき計算されます。つまり遺産が多ければ多いほど、相続税がかかるということです。相続税は一般の人に馴染みのない税金ですが、ほとんどの人が親からの相続を一度は経験します。そのとき、親が多くの財産を遺して亡くなると、多額の相続税がかかるおそれがあります。その対策を考えるうえで、生前贈与を検討してみてください。
ただし、「相続開始前3年以内の生前贈与」は相続税の計算に含まれる点に注意してください。生前贈与を行ったものの、3年以内に親が亡くなってしまった場合、それは相続税がかかる相続財産として扱われてしまうのです。しかも、税制改正によって、2024年以降は相続開始前7年以内の生前贈与も相続税の対象として加算されることになりました。
また、親が認知症になり意思能力がないと判断されれば、生前贈与そのものができなくなりますから、両親が元気なうちに時間をかけて行うことが有効です。生前贈与の準備はできるだけ早めに行うようにしましょう。