お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営し、新刊『未来のお金の稼ぎ方』を出版した起業家、児玉隆洋氏が「未来のお金」についてさまざまな分野の賢人たちに問う対談シリーズ。対話から見える、お金、経営、事業で成長するために持つべき視点とは――。前編はこちら
社員に幸せに働いてもらうために経営者ができること
「アタラシイもの体験の応援購入」という概念と、そのシステムを世の中に浸透させたMakuake。取締役の坊垣佳奈氏と、児玉隆洋氏は、共にサイバーエージェント出身の起業家という共通点がある。次の時代を切り開くふたりの経営者が今感じている、若い人たちの変化、起業について語り合った。
児玉 Makuakeは2019年に上場されましたが、Makuakeの成長を支えたものって、なんだったと思いますか。
坊垣 ひとつは人。社員を大事にすることは結構意識していて、15分でもいいから、月に一度は1 on 1で話す時間を取っています。回数にはこだわらず、自分のパフォーマンスが悪くならない限り、できるだけ多くの社員とできるだけ高頻度に。それは創業当初からずっと変わってないです。
児玉 私もちょうど今日、10人と1 on 1 を実施したところです。1 on 1はサイバーエージェントで学んだ財産ですよね。人を大事にして、チームの絆を強くすることで、いいサービスプロダクトを生み出せる。その結果、ユーザーを幸せにできて、事業が成長していくというのが正しい順番。経験的にも1 on 1をおろそかにすると、成果を出せなくなると感じているので、自分も月1回は実施します。ちなみに坊垣さんは1 on 1ではどんなことを話します?
坊垣 基本的な進捗や数字の確認もしますが、メインはコンディションのチェック。最近成果出てきているね、と褒めたりしながら、話しやすい空気を作って、今の仕事についてどう思っているかとか、今後どうしたいかとか。仕事のことだけじゃなく、お子さんや家庭が大変だとか、恋愛がうまくいってないとか、悩み事の相談に乗ることも多いです。
児玉 恋愛相談!?
坊垣 聞くだけじゃなく、私自身の話も結婚前はしてました(笑)。自分を開示すれば、相手も本音で話してくれるようになって、距離が縮まってくるんです。すると、仕事のことで悩み始めたらすぐに相談してくれるようになるから、早めにフォローができる。ある日突然辞めてしまうサプライズ退職はほぼありません。
児玉 なるほど。自分が最初に聞くのは3年後どうしていたいかです。そこを北極星にして、一緒に道を作っていくことを考えます。北極星さえ明確なら、もし今のルートで上手くいかなくても、別のルートを考えられ、成長し続けられる。北極星がぼやけると、目の前の数字に追われて疲弊してしまうので、そこは必ず聞くようにしています。
坊垣 けっこうウェットなところは似てるかも。やっぱりベースにある文化は一緒ですね(笑)。
上場はあくまでも手段。ここからが勝負
児玉 同郷ですからね(笑)。IT系の企業って、意外と泥くさいですよね。
坊垣 そうそう。机の上でなんでも終わらせるイメージを持たれがちだけど、手も足もすごく使ってる。たとえば、Makuakeはプロジェクトを実施する実行者が住む町にメンバーと訪れることも多いです。その土地に行かないとわからないこともあるし、地域の特性や産業を理解したうえで、どうやってお手伝いすべきかを考えたいから。特に地方は、テクノロジーカンパニーって「よく分からない人たち」と思われがちなので、ちゃんと対面でサポートしていくことを伝えることも大切だと思っています。
児玉 ABCashも受講生は2万人いますが、生徒さんから見たら講師はひとり。もちろん、全体の傾向はデータで見ますが、あくまでもお金のパーソナルトレーニングなので、講師は、目の前の生徒さんに向き合うことを徹底しています。目の前のひとりを満足させられなければ、全体の満足は決して上がらない。
坊垣 結局は人なんですよね。
児玉 スタートアップは上場を目指せみたいなところがありますが、実際、上場を果たされたときはどう思われましたか?
坊垣 上場するとよく「おめでとう」と言いますが、実際に言われたときはちょっと違和感がありました。むしろ今までよりも責任が増すからプレッシャーだったし、そもそも上場は手段。これからがスタートで、実現したいことのために資金調達をしているので「おめでとう」はちょっと違うかなと。
児玉 上場は手段という点にとても共感します。スタートアップをしていると、上場がゴールになってしまうところがありますが、それってすごく寂しい。上場して資金調達して、事業をブーストして、最初に掲げた大義を実現していくのが本筋。それがいつのまにか手段が目的化してしまうのは残念ですよね。
坊垣 上場はあくまで通過点。Makuake も、応援購入をもっと広げていきたいし、これからは海外に日本のいいものを知ってもらって応援していただく仕組みも作りたい。Makuakeでヒットした商品が一般販売後もちゃんと広がっていけるよう後押しする
MakuakeSTOREも先日スタートしたばかり。そう考えると、ゴールどころか、まだ山の3合目までしか登ってないですね(笑)。
Kana Bogaki
マクアケ共同創業者/取締役。2006年、サイバーエージェントへ新卒で入社し、サイバー・バズの立ち上げに携わる。その後、ゲーム会社2社を経て2013年マクアケ(旧サイバーエージェント・クラウドファンディング)を設立。共同創業者として取締役に就任。著書に『Makuake式「売れる」の新法則』(日本経済新聞出版)がある。
Takahiro Kodama
ABCash Technologies代表取締役社長。2007年、サイバーエージェントに新卒入社し、AmebaBlog事業部長、AbemaTV局長などを歴任。2018年、日本の金融教育の遅れ・お金の情報の非対称性に大きな課題を感じ、ABCash Technologiesを設立。趣味はサーフィン。