水の都と称されるも、高度経済成長とともに変貌を遂げ、かつての面影すら忘れられていった東京。しかし、今や"クルージングができる"水辺の街として生まれ変わりつつあるというのだ。マリンロマン溢れる、その未来都市構想とは? 【特集 海を愛するエグゼクティブたち】
船に乗るという選択肢がライフスタイルに
「船遊びと聞き、浮かぶのは葉山などの郊外ばかり。本来、都心のど真ん中でできるはずの贅沢が東京ではかなわない。バブル期に築地川のヨットハーバーが栄えたように、そういう空気感を戻したいと感じている人もいるのでは。水辺には多様な可能性が広がっていますからね」
そう語るのは、NYを拠点とする建築事務所で共同代表を務め、世界を舞台に数々のウォーターフロント開発を手がけてきた重松健氏だ。
「建物のデザインが主ですが、"体験のデザイン"に着目した都市空間の設計を中心に考えています。自然と人が集まり、楽しめる公共空間の中に住宅や商業施設、オフィスを戦略的に入れこんでいく。さらにそれらが水辺にあるという贅沢を手がけてきました」
その経験則から、東京の水路に新たな可能性を見いだす。
「立地のよさを活かしたいと感じ、東京の水路を水上交通のイノベーション特区にする〈TOKYO B-LINE〉構想の着手にいたりました。現在は、浅草からお台場まで一直線の水路が引かれているのみ。目的が観光のため停泊所も限られていますが、実は簡易船着場や防災船着場が多数あるんです。そこに停船できる路線図、つまり日常の水上交通網が実現すれば、東京の街は大きく生まれ変わります」
船での移動が常となれば、開発機運も高まると推察する。
「近年、NYでも同様の開発が行われました。元は工場地帯で、治安が悪く誰も寄りつかないような川沿いのエリアでしたが、水上交通を整備したことで活性化。イベントなどを通して人が集まり始め、気づいたらレストランやタワーが建ち並んでいました。僕の自宅もすぐ側でフェリー乗り場が目の前、マンハッタンまで一駅です。豪華クルーザーから水上バイク、水陸両用の飛行機までもが日常的に行き交い、船で通勤するのも当たり前の光景に。それは東京でも実現可能だと思っています。
水路利用者の増加に伴って機運が高まったら、各デベロッパーは仕込んでいた開発でリターンが得られると確信しているので、舟運活性化コンソーシアムの創立メンバーとして、舟運ファンド創設に向けて動きだしています。そしてVIPのインバウンドを増やす戦略も不可欠。モナコグランプリを観戦しに行った際に、高価なクルーザーが何台も停泊していたその光景が脳裏に焼きついていて。お台場でもその世界観を実現できるはずです」
その先駆けであり、ハブとなるのが日本橋の再開発だ。
「高速道路の地下化に伴い、都市河川を中心としたライフスタイルの再設計が計画され、我々も建築デザインにて携わっています。日本橋は元来、魚河岸があり水路のハブに。道路元標でもあり、東京駅も隣接していたりと、鉄道に陸路、そして水路とすべてが揃った他にはない立地で、まさにB-LINE構想の起点です。すでにある船着場や水辺にスポットをたくさん作り、ウェルビーイングを含めたライフスタイルを享受できる、世界には類を見ない環境が作れるのでは。八重洲だけでなく、日本橋川沿い5地区の再開発が同時に進んでいるので、全体をひとつとした街ブランドを作っていきたいと考えています」
夢の詰まったB-LINE構想、実現は10年後を見据えている。
「完成はまだ先と言えど、今できるところからどんどん体験を創造していく予定です。そして戦略を持ち一歩一歩進めていく。行き着く先には世界に誇れる未来の東京のライフスタイルが望めるので、好奇心を忘れず振り切っていきたいです」