新型コロナウイルスにより、多くの人がお金について真剣に考えたはずだ。先行きが見えないなかで、今後どうお金と付き合い、増やしていけばいいのか。この連載では、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する児玉隆洋氏が、コロナ後のお金と資産運用についてレクチャー。お金とは何か、投資とは何かを考える。【連載「アフターコロナのお金論」】
新しい資本主義がはじまる
資産所得倍増。最近のニュースでよく聞くようになりました。
これは貯蓄から投資への推進の流れとも近いものですが、労働所得だけではなく、労働所得に加えて不労所得も増やすことで、総合的に所得を倍増させましょう、というものです。
政府は新しい資本主義の実現に向けた実行計画案を示していますが、特に人への投資を重点的に行うとして、例えば100万人を対象に非正規も含めた能力開発や再就職の支援を行うとしています。これからは企業ももちろんですが、国家も人材で勝負する流れが加速していくのです。
また政府は、個人の金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるため、NISA(個人投資家向けの優遇税制)改革を含めた資産所得倍増プランを年末までに策定するとしています。
では、お金のトレーニング。岸田総理が掲げる新しい資本主義について、官民連携のもとで気候変動やデジタルなど社会的課題の解決を図りながら経済成長を目指すとしています。それにあわせて特に4分野に重点的な投資を行うと発表しました。その4分野とは何でしょうか?
答えは、「人」「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「グリーン・デジタル」の4分野です。
ここでわかるのは、バブル崩壊前に日本が世界経済的に大躍進をしていた時のビジネスモデルとは大きく違っている分野に投資して、新しい経済成長に勝負していくということです。日本の伝統的なビジネスモデルは今後変革を求められることになるでしょう。
この4つの柱のなかでも特にスタートアップという部分にまず注目したいと思います。私は新卒でサイバーエージェントに入社しましたが、創業9年くらいのスタートアップでした。さらに産業もインターネット広告・インターネットメディアという当時の成長産業でしたので自分たちでイノベーションをスピーディーに起こし続けていくことが当たり前のように求められていました。日々が常に変わっていき、常に事業成長していくエキサイティングさもあり、私は「戦後経済大成長の時はきっと日本全体がこんな感じだったんだと思う」とよく話していました。
そして今は起業してABCash Technologiesという金融教育フィンテックのスタートアップの社長をしていますが、新しい産業を自分たちでつくろう! 新しいビジネスモデルが成立することを世の中に証明しよう! とチームで新たなイノベーションに挑戦しています。
そういうスタートアップにずっと身をおいてきた私からみると、スタートアップが日本の成長の重点的投資分野になるのはとても可能性を感じますし、個人的にも嬉しく思います。
ただ反面でスタートアップについて知っておくべきこともあります。
例えば、はやく成長したいのでスタートアップにキャリアチェンジする、という話も聞きますが、スタートアップに身をおくだけで成長するわけではない、ということです。スタートアップの環境で成長できるかどうかは本人次第です。
スタートアップと大企業では会社のステージこそ大きく違いますが、世の中に価値を提供してその対価をいただいてビジネスを成立させるという仕事の本質は何も変わりません。さらにそれをチームでやる、という人や組織との付き合いの部分も同じです。
ただ違うのは、スタートアップは新しいビジネスモデルであることが多いのでしがらみが少ない。自分たちが世の中にとってよい! と思うものを自分たちの意思で最速で提供できます。
また組織のしがらみもまだ少ないステージ。派閥ができるほど組織は大きくありませんし、全体の年齢も若いので上もつまってもいません。重役ポストも新設されたり空席だったり変更されたりが多いので、頑張りによっては若くして重役につける可能性も大いにあります。ABCashも平均年齢26歳くらいですし、マネージャーや事業責任者も20代が多く活躍しています。社長の私もまだ30代ですが、活躍している幹部社員からは先日「2代目社長を目指してます」という話も直接もらって、そのハングリー精神に感銘をうけました。
スタートアップはそのくらいの突き上げがあった方が組織が活性化し成長するものなのです。
それではお金のトレーニング。普通に考えると大企業とスタートアップがビジネス環境で勝負すると、大企業の勝ちです。ビジネスに必要な人材、資金、ブランドなどがスタートしたばかりの会社とは比べものになりません。それでもスタートアップが奇跡的に勝てる可能性があるとしたら、それは何でしょうか?
答えは、スピード。これはスタートアップの知り合いの経営者も同じことを言う人がダントツに多いです。しがらみがない、だからスピードがはやく先行者優位をとることができます。そしてスタートアップには会社生存に対する危機感がありますので、その危機感が大きければ大きいほどスピードも音速圏内へと突入していきます。反面、危機感とスピード、これを失ったスタートアップには私はもう勝ち目はないと思います。
また岸田総理は5月、ロンドンで行った講演で1000兆円単位の預貯金をたたき起こし、投資による資産倍増を実現すると話していました。さらに自民党の経済成長戦略本部も「1億総株主」を目指す提言を政府に申し入れていています。貯蓄から投資が、国家戦略として過去最大に強化されているのです。
最後にお金のトレーニング。貯蓄から投資の方針にあわせて、加入対象年齢が65歳未満から65歳以上に引き上げ検討されているお金の制度は何でしょうか?
答えは、iDeCoです。iDeCoは、加入者が毎月一定金額を積み立て、投資信託など自分で決めた方法で運用する制度です。掛け金や運用益が非課税となる利点がある一方で、運用成績によって将来の給付額が変わります。今回の対象年齢引き上げは、希望者が70歳まで働ける機会の確保が企業の努力義務になったこともあります。
最近ニューヨークに出張に行った経営者から、「ランチでハンバーガー食べたら4000円くらいして焦った」と言う話を聞きました。日本がこの30年以上経済停滞している間に世界は経済成長し、円はすでに安くなっています。このままでは日本人は海外旅行にも行けなくなりますし、海外留学なんてお金持ちだけの特権になってしまいます。テスラ社CEOのイーロン・マスク氏は日本はいずれ消滅するとも発言していました。
ただ、政府も新しい方針で動いていますし、若い人たちの金融リテラシーへの興味関心も確実に上がってきています。日本の金融リテラシーの向上が、一人一人の個人の人生を少しでも豊かなものにし、それがさらに国家の経済成長にも貢献できると信じています。
Takahiro Kodama
1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCashTechnologiesを設立。代表取締役社長に就任。2019年、すごいベンチャー100受賞、スタートアップピッチファイナル金賞。趣味はサーフィン。