新型コロナウイルスにより、多くの人がお金について真剣に考えたはずだ。先行きが見えないなかで、今後どうお金と付き合い、増やしていけばいいのか。この連載では、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する児玉隆洋氏が、コロナ後のお金と資産運用についてレクチャー。お金とは何か、投資とは何かを考える。【連載 アフターコロナのお金論はこちら】
イーロン・マスクによるTwitterのTOB発表
Twitterは2022年4月、イーロン・マスク氏がTwitterを買収することで合意したと発表しました。なんとその買収総額は約440億ドル(約5.6兆円)にもなる見込みです。
モルガン・スタンレーは約255億ドル(約3.2兆円)の貸付け計画をまとめました。また最新の情報では、イーロン・マスク氏は2022年5月、「偽アカウントや迷惑アカウントの数が、ユーザー全体の5%未満と裏づける情報が得られるまで、取引を一時保留する」とTwitterの買収手続きを一時保留すると表明しました。
言論の自由と運営側によるアカウント規制の両面で話題になることの多いTwitterという世界的ユーザー規模のサービスであること、そしてその買収金額も大きいことから世界中でニュースにもなっているイーロン・マスク氏のTwitter買収劇。まだまだ先行きがわからない状況ですが、今回はTwitter買収から学ぶ、企業買収やTOBについて紐解いていきましょう。
M&A、TOB、企業買収、企業合併、などの言葉をニュースなどで耳にしたことがある方も多いと思います。
M&AはMerger And Acquisition(合併と買収)の略で、直訳すると「企業の合併と買収」となります。一般的にM&Aという場合は、「会社もしくは経営権の取得」を意味します。M&Aの主な手法としては株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割があります。またM&Aの広義の意味として、企業の合併・買収だけでなく、提携を含める場合もあります。つまりM&Aは買収や合併を包括した言葉になります。
それでは、イーロン・マスク氏がTwitterを買収する際に使おうとしているTOBについてみていきましょう。TOBとはM&Aの手法の一つです。
ここで、お金のトレーニング。TOBとはどういう取引のことをいうのでしょうか?
TOBとはTake-Over Bid(株式公開買付)の略で、通常の取引市場での株式買付と異なり、TOBは取引市場を通さずに取引所外で行われる取引です。買手が事前に買付期間・買取株数・価格を公告して、買収対象の企業の株式を既に保有している不特定多数の株主に対して株式の買付を呼びかけるのです。
イーロン・マスク氏はTwitterをTOBという手法を使って、M&A(買収)しようとしているということになります。
また、M&Aというと海外のニュースが最近は多くなりましたが日本企業によるM&Aも多数あります。例えば日本製薬大手の武田薬品工業は、2018年にアイルランドの製薬大手シャイアーをM&Aしました。日本企業によるM&Aとしては過去最大の規模でした。
では、お金のトレーニング。その際の買収総額はいくらだったでしょう?
答えは約460億ポンド、当時の日本円で約6兆円以上にもなります。これにより売上高で世界トップ10に入る巨大製薬会社が日本で初めて誕生したのです。これまでもM&Aで新薬候補を獲得してきた武田薬品工業ですが、シャイアー買収を機に自社での新薬開発を中心に据える「創薬」型企業への転換を図っています。既存事業の規模の拡大や、新規事業を新しく創ることには膨大な時間とコストがかかり、さらに失敗するリスクもあります。M&Aはその時間を一気に買うことができるので、事業を拡大する時間を大幅にスピードアップすることができるのです。
続いてお金のトレーニング。日本で歴代最高額のTOBをした企業はどこでしょう?
答えはNTTです。NTTは2020年、通信子会社NTTドコモを完全子会社化するためのTOBを行いました。買い付け総額は約4.2兆円と言われています。ソフトバンクが2006年にボーダフォンを、2012年にスプリントを買収した際にはいずれも高額な買い物だと大きな話題になりましたが、この時の買収金額ですら約1.75兆円と約1.8兆円ですので、NTTによるNTTドコモ完全子会社化の大きさは際立っています。
NTTの例のように、TOBは対象企業の経営権を取得することや、子会社化することを目的に行われます。会社法では持ち株比率により権利を取得できます。対象企業の株式を50%以上取得して、株主総会の普通決議が単独で成立可能になれば、すなわち経営権を取得したことになります。
またTOBの中にも、友好的TOBもしくは敵対的TOBという言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。友好的TOB、敵対的TOBには「対象企業の経営陣から同意を得ているか/否か」の違いがあります。
過去で話題になったのは、ライブドアのニッポン放送に対する敵対的TOBがありました。ライブドアとその子会社が、ニッポン放送の発行済み株式の35%を取得し、筆頭株主に躍り出たのです。ニッポン放送の筆頭株主ということは、フジテレビも傘下に収めることになるだけに、連日のようにテレビではこの件が取り上げられていました。結局これは成立せずに、ライブドアがニッポン放送の株式をフジテレビに譲り、フジテレビがライブドアへ出資するという形になりましたが、「敵対的TOB」とはどういうものか、その防衛策としての「ポイズンピル」などといった金融用語も、このニュースをきっかけに多くの方が関心を持ったのではないでしょうか。
最後のお金のトレーニング。敵対的TOBの防衛策として、敵対的TOBの対象企業が友好的な第三者に株式を売却して、買収企業が目標株式数を取得できないようにする手法のことを何と言うでしょうか?
答えはホワイトナイトです。この言葉もニュースで耳にしたことがある人も多いと思います。このように普段のニュースの中の言葉からも、「円安」「暗号資産」「NFT」「利上げ」「ビットコイン」「CBDC」「NISA」「住宅ローン金利」など、私たちの生活に影響する様々なお金の知識を身につけるきっかけを得ることができます。
『気になっていたNISAやiDeCoなどの投資方法やちょっと調べれば分かりそうな、ふるさと納税など、自分一人ではあってるのか? 理解出来てるのか? 不安で初心者の私は手がつけられずにいました』
『学ばずにきてしまったお金の事や投資の事を学ぶと、出口のない不安が晴れて気持ちが明るく軽くなったように思います』
お金のトレーニングスタジオ ABCashは20代30代の女性が中心ですが、こちらは受講生からのコメントです。お金のことに不安を抱える人は本当に多いのです。
お金についても激動の時代です。だからこそ、自分の将来を自分で守るためにも、自分らしい人生を生きるためにも、お金の正しい知識を身につける必要が増していっていると強く思うのです。
Takahiro Kodama
1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCashTechnologiesを設立。代表取締役社長に就任。2019年、すごいベンチャー100受賞、スタートアップピッチファイナル金賞。趣味はサーフィン。
ABCashについてはこちら