新型コロナウイルスにより、多くの人がお金について真剣に考えたはずだ。先行きが見えないなかで、今後どうお金と付き合い、増やしていけばいいのか。この連載では、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する児玉隆洋氏が、コロナ後のお金と資産運用についてレクチャー。お金とは何か、投資とは何かを考える。
インフレの備え
ガソリン価格の値上げニュースを、連日目にするようになりました。
ウクライナ情勢などを受けて原油価格は値上がり傾向が続き、レギュラーガソリンや灯油の価格はおよそ13年ぶりの高値水準となっているのです。ガソリン価格のさらなる上昇を抑えるため、政府は、1リットル当たり5円が上限となっている石油元売り会社への補助金について、大幅に拡充する方向で検討に入る状況になっています。
モノやサービスの値段が継続的に上がっていくことを「インフレ」と呼びますが、それは現在のアメリカでも起きています。2021年12月におけるアメリカのインフレ率は前年同月比7%にも達し、1982年以来の高水準を記録しました。ガソリン価格の高騰は、自動車大国であるアメリカの家計も直撃しています。このインフレの流れは、日本へどのような影響を及ぼすのでしょうか。
まず、インフレになり物価が上昇すると、同じ金額で買えるモノの量が少なくなってしまいます。今まで100円で購入できていたモノが120円になるということです。これはつまりお金の価値が目減りしていることになります。
例えば最近でも人気アイス商品の「ガリガリ君」が、約25年間も据え置いてきた価格を60円から70円に値上げしました。これは原材料価格や物流費の高騰に直面したことが要因と言われています。
それではお金のトレーニング。
インフレになるとこのように物価は上がるものですが、価格が変わらないのに実質的には値上げしているという手法があります。インフレ時によく行われますが、この値上げ手法をなんと言うでしょうか?
答えは、「ステルス値上げ」です。
具体例をあげると、例えば今まで100円で買えていたポテトチップスを、価格は100円のままで据え置きつつ、中身のポテトチップスの枚数を何枚か減らして販売する、という手法です。また例えば、今までは1000円で買えていたTシャツを、価格は1000円のままで据え置きつつ、生地を薄くして販売するというような手法です。これは「実質的な値上げ」なのですが、消費者にそれに気づかれにくいことから「ステルス値上げ」と呼ばれているのです。
また日本とアメリカを比較すると、アメリカのインフレの勢いは圧倒的です。
それではお金のトレーニング。アメリカの2022年1月の消費者物価指数は、前の年の同じ月と比べて7.5%上昇しました。これは約何年ぶりの高い伸び率でしょうか?
答えは、1982年2月以来の、およそ「40年」ぶりの高い伸び率となりました。その中でも特に、ガソリン価格が約40%上昇しています。
ロシアのウクライナ侵攻により、世界有数の資源輸出国であるロシアから欧州への天然ガス供給停止リスクも懸念されています。このような理由からエネルギー価格が高騰を続け、あらゆる経済活動の糧であるエネルギー価格の上昇が、その先のすべての物価を押し上げる要因となっているのです。
次に、インフレが続いた場合のお金の価値の変化もみていきましょう。
お金のトレーニング。物価上昇率が年「3%」だったとして、20年後にモノを買うことを考えてみましょう。20年後の1000万円は、現在の物価に換算するといくらのモノしか買えなくなるでしょう?
答えは「約553万円」に相当するモノしか買えないことになります。これはお金の価値が「約447万円」分も下がってしまうということです。20年という期間だとなかなか変化に気づきにくいのですが、例えばトルコでは、1年でお金の価値が「約半分」になってしまいました。年金で暮らせない、自動車も価格が約2倍になり購入できないと悲鳴があがっており、お金の価値が急激に下がることは現実に起こり得ることなのです。
そのようなインフレの時の資産形成。
その対策としては、まず株式などの有価証券があげられます。株式は企業の業績を反映しますので、インフレではモノやサービスの価格が上昇し、それに伴って収益が伸びやすくなる業種も多くあります。株価があがると資産価値は目減りしないことになります。
また、不動産や金などの現物資産もインフレ時に価格が下落しにくい手法です。特に金は、有事であっても価値が変わりにくい安全資産として有名です。
さらに、日本で急激なインフレが起こると「円」の価値が下がるので、その前に「外貨」を持つこともリスク分散できる手段の1つです。
そして、インフレの中でも非常に高く、加速するインフレを「ハイパーインフレ」と呼びます。例えば、ジンバブエで起こったハイパーインフレでは、2008年にはインフレ率約2億3000万%となり世界的なニュースとなりました。手押し車で札束を大量に乗せて買い物に行き、それでもパン1つしか買えないような日常の光景をニュースで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
しかもそれは海外に限った話ではありません。日本でも戦前にハイパーインフレになり、物価が約180倍に上昇したことがあります。その時に「現金」でしか資産を持っていなかった日本の富裕層は、その大部分の資産を一気に失ってしまったのです。
そして最近、インフレであるということを活用して、金融商品の販売に都合のいい情報だけを切り取って顧客に伝えて、自社の金融商品を販売しようとする業者もでてきています。
金融商品は人生を豊かにするものであり、人類が発明した叡智です。
ただ、金融商品販売を収益モデルにした「金融教育(お金のセミナーなど)」は、経済合理性的に、自社の金融商品の販売につながりやすい情報を優先的に伝えてしまったり、販売手数料の高い金融商品により誘導するように情報を組み立ててしまったりと、個人の資産形成という観点からみると金融リテラシーの「中立的」を維持するのは難しいのではないかと思います。
金融商品を買う側と売る側。
そこに情報の非対称性がまだまだ大きいのが、金融という領域です。だからこそ、買う側がもっと知識やスキルを持って対等な情報レベルで判断できるように、買う側のエンパワーメントがますます必要なのです。
今年、高校生でも必修化が始まる金融教育。金融教育後進国である日本が変わるきっかけになって欲しいと強く思っています。金融教育は、英語教育・プログラミング教育に続く、個の時代に求められる第三の教育なのです。
Takahiro Kodama
1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCashTechnologiesを設立。代表取締役社長に就任。2019年、すごいベンチャー100受賞、スタートアップピッチファイナル金賞。趣味はサーフィン。
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