人間の三大欲求は、宇宙空間になっても満たすことはできるのか? この当然ながら素朴な、居酒屋の下ネタトークになりかねない質問に加え、健康や美容、仕事面にいたるまで、気になる“スペースライフ”をふたりの有識者に聞いた。
Q. 寿司は握れるのか?
A. シャリは握れるが、ネタは乗らない
「私も寿司は大好きです。宇宙でも食べたいですよね。宇宙食に白米はあるので、粘り気があるシャリなら握ることはできると思いますが、問題はネタです。海苔などでシャリに固定する必要があり、それよりも大前提として、宇宙に持ちこめる食料は殺菌処理をした加工品です。なので、生魚は保存性の観点から厳しいでしょうね。お腹を壊したら大変です」(和田)
「握りも軍艦巻きもネタが浮遊して厳しいと思いますが、巻物は大丈夫だと思います。日清食品が『スペース・チラシ』を開発しているので、ネタをフリーズドライなどの加工品にすることができれば、宇宙で巻寿司はつくれると思います」(竹内)
Q. アルコールはOK?
A. シャンパンはとても危険です
「宇宙空間では飲酒はもちろん、酒の持ちこみも原則禁止されています。ロシアの宇宙飛行士がコニャックを持ちこんだという噂がありますが、血流が地球上と違うため、悪酔いすると思われます。アルコールの揮発性物質が、精密機器に影響を与える危険があります」(竹内)
「もし酔っ払って、吐瀉物(としゃぶつ)が船内に散らばるなんて最悪です。きっと宇宙に行ったらシャンパンで乾杯したい! と思う方もいると思いますが、あのポンッと開ける行為、とんでもないスピードでコルクが飛んでいきますから。シャンパンはとても危険なんです」(和田)
Q. 宇宙空間での調理法は?
A. 原則、火気厳禁です!
「火は使えないので、加熱は電気ヒーターを使います。お湯も船内に拡散してしまうと周辺機器に大きな影響を与えますので、食料パックに加える水分も少量で済むように宇宙食をつくるメーカーは工夫しています」(竹内)
「宇宙ステーションの電力は太陽光パネルで発電しますが周辺機器に影響を与えるので、電子レンジはありません。ちなみに、宇宙では味覚も変化します。諸説ありますが、嗅覚の変化が影響を及ぼしている可能性があるんです。宇宙では顔のむくみによって鼻が詰まり、嗅覚も低下。それが味覚に影響を与えていると考えられます」(和田)
【Column】 将来的には食材も現地調達可能になる?
ロケットを打ち上げ、宇宙に何かを持ちこむには大金がかかる。果物などの生鮮食品の持ちこみも、保存や衛生面の観点から制限がある。水や食料は、金にも等しい存在なのだ。この先、人類が宇宙で暮らすとするならば、食料問題の解決は欠かせない。そのソリューションとして考えられているのが、月面での植物プラントだ。JAXAや大学、企業などが参画する「SPACE FOODSPHERE」プログラムでは、2040年代に月面1000人の長期滞在を想定し、月面基地のコンセプトの検討や食料問題の課題解決を推進。植物プラントや培養肉などのバイオ食料リアクターの建設などにより、宇宙での地産地消を目指している。
一般社団法人 宇宙カルチャー推進協会 理事 和田直樹
1961年東京都生まれ。宇宙教育指導者として、20年ほど前から全国の各教育現場・科学館などを回り、子供から大人まで幅広い世代の人たちに宇宙の面白さ・楽しさ・不思議をわかりやすく伝えている。SNSでも情報発信中。
サイエンスライター 竹内 薫
1960年東京都生まれ。東京大学教養学部、同理学部を卒業後、マギル大学大学院にて博士課程修了。理学博士(Ph.D.)。大学院修了後、サイエンス作家として活動し150冊あまりの著作物を発刊。物理、数学、脳、宇宙、AIなど幅広い科学ジャンルで発信を続ける。
※ゲーテ11月号は、宇宙の最新事情を網羅した完全保存版!
Edit=西原幸平(EATer)
Illustration=加納徳博