新型コロナウイルスにより、多くの人がお金について真剣に考えたはずだ。先行きが見えないなかで、今後どうお金と付き合い、増やしていけばいいのか。この連載では、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する児玉隆洋氏が、コロナ後のお金と資産運用についてレクチャー。お金とは何か、投資とは何かを考える。 アフターコロナのお金論27回。
給与もデジタル化される時代
新型コロナウイルスの感染拡大により、人々のお金の課題も多様化してきました。
その要因はアフターコロナの世の中で、将来について改めて考えるきっかけができたこと、リモートワークの普及による住みたい場所が変化したこと、終身雇用制度から様々な仕事の仕方が選択できるようになったこと、つまり叶えたいライフスタイルが一気に多様化してきたのです。
そんな多様化している時代の中で、「お金」については一本の力強い流れとして「デジタル化」がアフターコロナでさらに加速しているのです。
その一つが、デジタル給与。
2021年中に解禁が検討されています。現在日本の企業でも導入準備が進められており、すでにアメリカなど海外で広く普及していのが「ペイロールカード」です。
それではお金のトレーニング。ペイロールカードとはどんなカードでしょうか?
ペイロールカードとは、現在制度化が検討されているデジタル給与に使われるカードのことで、資金移動業者が発行する前払い式の給与を受けとるためのカードになります。
そのカードがあると、企業は従業員のカードに直接給与を振り込むことが可能となるのです。そして、ペイロールカードをスマホ決済サービスと連携させることで、従業員はペイロールカードのデジタル払いで受け取った給与から、スマホ決済を活用してお店などで直接買い物をすることができるようになります。
銀行口座からお金を引き出す際の手数料を減らすことができたり、資金移動の手間も減るので、利用するユーザー側にもメリットがあるといえます。では、企業側のメリットはどうでしょうか。
デジタル給与を選択する従業員が増えると、まず給与の銀行振込の際に必要だった振込手数料を軽減していく事ができます。さらに企業側が、給与の週払いや日払いを行いたい場合、現在だと、給与を銀行口座に振り込む場合は都度手数料が発生してしまいます。ただ、デジタル給与の仕組みを使った場合は、同じサービスであることなどの制限はありつつも、手数料が少なかったりかからない方法もあり、企業としても上手く活用できればメリットをもたらす可能性は大きくあります。ただその一方で、ペイロールカードの課題もいくつかあげられています。
それではお金のトレーニング。どういう課題があげられているでしょうか?
答えは複数ありますが、まずは万が一資金移動業者が破綻した場合に、現在の法律では預金保険制度の対象にならないことがあげられます。さらにセキュリティの安全性も指摘されています。
そのため、厚生労働省では資金移動業者に一定規模以上の資金調達能力を求めており、金融庁による許認可制度を義務づけ、厚生労働省の管轄下に置くことで法整備をすすめているのです。ペイロールカードを管理しているのは、銀行以外で送金サービスの提供が可能な資金移動業者となります。
それではお金のトレーニング。資金移動業者は日本国内だけで何社あるのでしょうか。
答えは、約80社もあります。「PayPay」「LINE Pay」「楽天ペイ」「メルペイ」などもここに入ります。続けて、日本においてのキャッシュレス決済の現状をみていきましょう。
2020年に行われた経済産業省のキャッシュレス調査によると、日本でのキャッシュレス決済比率は約25%。
ここでお金のトレーニング。2020年の経済産業省のキャッシュレス調査の中で。一番キャッシュレス決済が普及している国はどこでしょうか?
答えは、韓国。なんと約96%という高水準を誇ります。続いてイギリス(約69%)、中国(約66%)、オーストラリア(約58%)、カナダ(約56%)と続きます。
この現状を踏まえて、日本では2025年6月までにキャッシュレス決済比率を約40%まで引き上げることを目標として掲げています。デジタル給与の仕組みが導入される事によって、キャッシュレス決済比率の向上はさらに進むのではないのでしょうか。
また、外国籍の方は銀行口座を開設するのに手間や時間がかかることがありります。給与のデジタル払いを解禁することによって、外国人労働者の受け入れ環境の整備に繋がり、国として雇用の確保や生産性の向上にもつながっていくと思います。
もちろんセキュリテイ面での安全性など、法整備をしなければいけない課題も残されていますが、アメリカではすでに年間約550億ドル(約5兆8,000億円)もの給与の振込先として、ペイロールカードが使われていますので、これからの日本での動向にも注目したいところです。
人類史上、もっとも変化のはやい時代を我々は生きています。
テクノロジーにより、お金についても変化のスピードは今後さらに加速していき、新しい手段や情報が次々と我々の目の前に現れるでしょう。ただ、どのような選択肢が目の前にあっても、正しい判断を自分で決断できるように、後悔しない正しい決断をするために、ファイナンシャルリテラシーは自分の人生の大きい武器となるのです。
Takahiro Kodama
1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCashTechnologiesを設立。代表取締役社長に就任。2019年、すごいベンチャー100受賞、スタートアップピッチファイナル金賞。趣味はサーフィン。