35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と笑われて2年後、英語力未だ0.5であえなく帰国。だけど日本にいたって、きっともっと英語は覚えられる! 下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。「人のEnglishを笑うな」第63回!
「乗り出す」を英語で言えない!
日本に帰ってきて3ヵ月が経とうとしています。最初の1ヵ月はオンラインでオーストラリアに留学、2ヵ月目は、これまでやっていた日系のオンライン英会話でフィリピンの先生と毎日話す、などをやってきましたが、徐々に日本の日常に慣れ、仕事が忙しくなってくると再び渡英前の「勉強なんて続けてらんない!」というマインドに近づいてきてしまいました。そうなると、わずか0.5だけあった英語力も一気に0に戻りつつあります。
しかし細々と外国人の方に日本語を教えるオンラインのコースには参加を続けており、先日とんでもなく優秀な生徒さんと出会いました。
「川端康成を原文で読みたい」
オーストラリア在住のその方は「雪国」を翻訳で読んで以来、ぜひ原文で読んでみたいと勉強をしているのだそうです。難しい文章や文学的な表現が多々ありますが、この生徒さんはとても日本語が上手なので、「難しいところは全部日本語で説明すればいい」と思って、一緒にレッスンで読むことにしました。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。
有名な最初の一文です。「〜雪国であった」までは生徒さんもすぐ理解しましたが、「夜の底が白くなった」から「全然わからないから、英訳してくれ」と言われてしまいました。そもそも大変文学的な表現です、下手な私の解釈を入れてしまっては、川端作品を汚すことになってしまいます。
The bottom of the night got whiter.
とっさに直訳しました。これでいいのか全然わかりません。しかしまぁ、なんとなく意味はわかったようです。ほっとしたのも束の間、わずか2行後にまた同じように、「英語でお願い」と言われてしました。
娘は窓いっぱいに乗り出して
というところです。列車の窓から身を乗り出している様子を描いています。
「『乗る』はrideで『出る』はoutでしょう。どういう意味ですか?」
これは「乗る」と「出る」ではなくて「乗り出す」でひとつのフレーズだと考えなければいけない言葉なのでしょう。しかし、全くもって英語で「乗り出す」が出てきません。アウアウ言ったあとで、結局Google画像検索、列車の窓から身を乗り出している人の写真を見せて乗り切りました。
(蛇足ですが、以前も説明できないものをGoogle画像検索で見せようとしたら、実は卑猥な意味がある言葉で、ものすごくグロテスクな画像がpcいっぱいに広がったことがあります。生徒さんは絶句、わたしはとにかく「違う違う」と焦り倒しました。ちなみにその言葉は「トコロテン」です。そういう食べ物があるということを伝えたかっただけなんです。絶対に画像検索しないでください)
結局、英語でなんて言ってよかったのか、解決しないまま日々を過ごしていると、偶然に電車の駅でその答えを見つけました。
Don’t lean out at the platform door please.(ホームドアから身を乗り出さないでください)
ホームドアに書かれた注意書きです。丁寧に身を乗り出している人のイラストも書いてあって、まさに私が言いたかったことを表していました。ちなみに別の線では、まったく同じ日本語訳の下にこう書いてありました。
Do not lean over the platform gate.
Leanは「よりかかる」とか「傾く」「曲げる」という意味の動詞なのでlean over〜/lean out〜で、「〜から身を乗り出す」になるようです。
日本で暮らしていても、こうやって少しずつ学ぶことはあるのだなぁと実感した出来事でした。
荷が重すぎるペットサロン
やはり、オリンピックを意識してなのか、街中に英語標識が増えた気がします。それがとても勉強になるので、街を歩く時、以前に増してキョロキョロするようになりました。日々スマホとPCばかり見ている生活では目が悪くなりますし、遠くの標識なんかを眺めて視力もよくなるかもしれません。
そんな時、とあるペットサロンの看板を発見しました。そしてとても焦りました。
ペットサロン「SIN」
イギリス人の生徒さんにこの看板の写真を見せたら、ニヒルに微笑んでこう言いました。
「ペットサロンにしては荷が重いですね〜」
sin = 罪
という意味です。宗教や法、両方における「罪」の意味になります。もしかしたら「生き物を所有することは罪」という深い意味でつけたのかもしれません。しかしなんとなく、店長さんのお名前が「シンさん」なんじゃないかなぁと思っています。普段の単語力のチェックにもなるので、キョロキョロ街を歩くのは、やっぱり勉強になるなぁと再び実感いたしました。
MOMOKO YASUI
編集・ライター。1983年生まれ。男性ライフスタイル誌、美術誌、映画誌で計13年の編集職を経て2018年渡英、’20年帰国。