全日本スナック連盟の会長である玉袋筋太郎さんがスナックを巡り、プロの目線で、ママやお店の評価を下す連載「スナックミシュラン」。日本列島津々浦々、スナックは全国に7万軒もあるというのに「興味はあるけど行ったことがない」なんて人も多いはず……。玉袋筋太郎さんが、ママのキャラ、お店の雰囲気、つまみ、歴史、時にはお客さんの質まで、深い愛情を持って★をつけていきます。第10回は東京・湯島にある『もしも…』。
今回、取材に伺ったのは文京区、湯島にある『もしも…』さん。東京大学や学問のみち、といった「知」を感じるエリアと、上野という歓楽街に挟まれた街。その地で37年。バブル崩壊も乗り越え、おじ様たちを癒し続けてきたエプロンに身を包んだママにお話をうかがった。
湯島で愛されて37年
玉ちゃん こちら湯島の『もしも…』さんでございます。
ママ よろしくお願いします。
玉ちゃん 湯島、文京区です。いいですね、なんて言っても地盤が固い!
ママ そうでございます。こっちの上の方からは、東大とか医療関係の方がいらしてね、逆側だと上野とか御徒町から、あとは銀座から流れてくるお客さんもいらっしゃる。素敵な街ですよ。
玉ちゃん 上野のキャッチに捕まってキャバクラなんか行かずに、まっすぐ湯島を目指すことを勧めるね。いやでも、考えてみれば上野なんてのはさ、親父に連れられて上野動物園に行ったり、色気付いた頃にはアメ横に買い物に行ったりさ、近くには来てたんだよね。で、ようやくこの歳になって、いい湯加減の島、湯島に気づくというね。このスナックは、そんな湯島で37年ですよ。
ママ もう37年だけど、35周年の時は本当に嬉しかったわ。130人集まってくださってね。玉ちゃんがVTRで出演してくれて「ママ、おめでとう!!」って。みんな「玉ちゃんだ〜!」って喜んでね。
編集部 130人も集まったんですか?周年パーティに。
玉ちゃん そうなのよ、東天紅でね。
ママ そ、大騒ぎでね(笑)
玉ちゃん それもね、自作でやらないのがいいんだよ。お客さんが「やろうぜ」って言って始まるんだから。普段はさ、この店でママがお客さんを担いでるんだけど、周年とかはお客さんが担ぐんだよ。
ママ 40周年まで頑張れって言うのよぉ。死んじゃうかもしれない(笑)。でも、40周年の時は、玉ちゃん来てね。
玉ちゃん おう、もちろんだよ!
主婦→スーツ→エプロン着
編集部 37年前に、スナックを始めたきっかけは何ですか?
ママ ここは、当時2年くらいこの場所を貸していたんですよ。でも、そこが出てから何ヶ月も借り手が決まらなくてね。で、ただの主婦で素人だけど、あけておくのはもったいないし、やってみようか!と思ったんですよ。周りの人は、流行るわけないと言ってたけどね。大当たりしちゃってね(笑)
玉ちゃん ちょうどバブルの頃だよね
ママ そう。
玉ちゃん 一番いい時だったよね。ママの格好も違ったもんね。
ママ 当時はね、私もスーツ着てね、外人のスタッフも雇ってね、音楽かけて、「イェイ、イェイ、イェイ!!」みたいなね。
玉ちゃん 当時はスナックというよりもラウンジとかね、そういう高い感じだったんだよね。
ママ いい会社のお客さんが支えてくれたのよね。で、バブル弾ける直前にね、ボチボチ危ないなと思ってね、この格好にして、5000円で飲み放題に変更したの。
編集部 よくバブルが弾ける前にシフトチェンジしましたね。
玉ちゃん そりゃ、店名からして危機管理!って感じじゃない。「もしも!バブルが弾けたら」ってね。
ママ そうそう、もしもダメになったらってね(笑)。でも、弾けてからじゃ遅いのよね。見極めが大事なの。
編集部 で、このスタイルになったんですね。
玉ちゃん スーツからエプロンになったんだよ。スタッフのお姉さんたちもみんなエプロンだもんね。制服だよ。
ママ 熟女だけど、秋葉原より早くやってたわよ(笑)
玉ちゃん 妙に癒されるんだよね。
ママ でも、シフトチェンジで5000円にしてね、何でもアリにしたの、何を飲んでも、お酒を自分で持ってきてもいいよって。そしたら、バブルが弾けてからも、元のお客さんみんなそのまま来てくれたのよね。そうやって37年やってこれたのよね。
長続きの秘訣
編集部 世の中の流れを見極め、バブル崩壊も乗り越えて37年。ずっと愛されてきた秘訣はなんですか?
ママ まごころでしょうかね。アハハハ(笑)でも、ほんと縁は大事にしてきたわね。例えば、うちのお客さんなんか、70歳以上の人が多いでしょ。だから、もう亡くなった方もいらっしゃるのよね。だから、35周年の時にね、亡くなった方のお別れ会もやったの、全員の。その方達が来てくれてたから、今の『もしも…』があるからね。
玉ちゃん すばらしいね。出会いがあって別れがある、当たり前のことだけど、別れの先も感謝を忘れない。感動だね。
ママ お客さんを大事にするというのがモットーだからね、お正月は樽酒を振る舞うとかね、お節句だとかね、4月にはボウリング大会で、5月は祭りでスタッフもお客さんもはっぴを着たりね、他にもワイン会とかいろんなイベントをするの。
編集部 ボウリングですか?お客さんの平均年齢70歳超えてますよね?
ママ するよー!30人くらい集まるのよ(笑)
玉ちゃん 四季折々ね、いろいろやるんだよね。誕生会もやるよね?
ママ そう、毎月第3水曜日は、その月に生まれた人をお祝いする日なの、料理出して。2月は私、ママの誕生日だからね。25日と26日、予約で満杯よ。
竜宮城の営業システム
玉ちゃん すごいね、予約で埋まっちゃうスナックって、なかなかないよ。
ママ 2、3人だったらね、つめれば座れるんだけど、5、6人になると入れないことがあるからね。それで予約する方が多いのかもね。でもね、仕事してるからには、お客さん呼ばなきゃね! ま、私は一度もお客さんに電話したことないけど。
編集部 え?
玉ちゃん ママは営業なし。
ママ そう、女の子たちがするの。任せてるからね、ママは何もしなくていいようになってるの。
玉ちゃん 素晴らしいシステムを構築してるよねー。
ママ 「いらっしゃーい」「おひさしぶりー」って言ってればいいの(笑)。みんなシッカリした子ばっかりだから。
玉ちゃん ほんと、スタッフが完璧なのよ。
ママ ここに来るとホッとするというお客さんが多いわね。銀座で若い女の子とギャーギャー騒いでサービスしてね。でも、ここだと女の子にサービスしなくていいからね。
玉ちゃん お客さんにとっての竜宮城だね。竜宮城では鯛やヒラメが舞い踊っているけど、ここで舞っているのは干物だね(笑)
ママ こらーー!(笑)
玉ちゃん いやいや、釣ったばっかの魚だけが美味いわけじゃないんだよ。
ママ そうだ! 若けりゃいいってもんじゃない!
玉ちゃん でも、ほんとに、ここのお客さんたちはママたちに甘えにきていると思うよね。楽だしさ。ほんとに気が利くもん、あのエプロン部隊(笑)
ママ 玉ちゃん、歌って歌って。雅子ちゃんに言っておいたから、『北空港』。
玉ちゃん いやいや、他のお客さんもいるから…。
ママ いいからいいから、私も歌いたいから~。
玉ちゃん ママが歌いたいのね(笑)
ママ 歌は聞くのも歌うのも好きなのよ。親が三味線やってたもんだから、合いの手を入れるのが大好きでね。さ、歌おう!
お客さんからの拍手と声援を浴び、ママ、雅子さん、玉ちゃん、3人の『北空港』がはじまった。
編集後記(取材陣の感想)
ママと3人のスタッフがエプロン姿で迎えてくれる『もしも…』は、大人が甘えに行く場所なのかもしれない。包容力のあるママが、若いスタッフを雇っているスナックはよくあるが、ここは3人が、それぞれに個性と包容力を備えている。『もしも…』暦22年の頼れるベテラン雅子さん、10年目で料理上手なゆきこさん、4年目の容姿端麗なあけみさん。取材中、満席の店内では、ママとスタッフ3人を呼ぶお客さんの声がよく聞こえてきた。その親しみと愛情のあるお客さんの呼びかけに、4人が笑顔で応える。店名には「もしも」の後に「…」が続く。ママは、この3つの点の方が大事で、色々な意味を込めたと言うが、きっとそこには暖かく人を思う言葉がたくさん込められているに違いない。
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①UNIFORM
★★★
「このエプロン姿に、なんか癒されちゃうんだよな」
②MUSIC
★★★
「ママの十八番は、美空ひばりの愛燦燦」
③ONE TEAM
★★★
「やっぱり人と人。お店にいる全ての人が1つの仲間に見えちゃう雰囲気なんだよね」
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もしも…
住所:東京都文京区湯島3-33-9 小能ビルB1
TEL:03-3832-7872
営業時間:18:00〜24:00
定休日:土曜・日曜・祝日