GOLF

2025.09.14

飛距離が伸びる、キャメロン・スイング

PGAツアーで悔しい思いを重ねてきた“シルバーコレクター”たちがついに歓喜の瞬間を迎えた。キャメロン・ヤングは圧倒的スコアで初優勝を飾り、トミー・フリートウッドも長年の苦闘を経て年間王者に。悔しさを糧に勝利をつかんだ彼らの軌跡を振り返るとともに、キャメロン・ヤングに学ぶ飛距離の出し方も動画解説付きで紹介する。吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。

トンネルを抜けた者たち

スポーツの世界には「シルバーコレクター」という独特の呼び名がある。日本で生まれた和製英語で、直訳すると「銀の収集家」。つまり、優勝を逃して“2位=シルバーメダル”を積み重ねる選手を指す言葉だ。

優勝トロフィーは選手にとって最大の栄誉だが、その陰には、あと一歩で勝利を逃し続ける選手たちがいる。彼らは「勝てない」という烙印を押されながらも、安定して優勝争いに顔を出し、確かな実力を示してきた。

今回は、そんな惜敗を重ねてきた選手たちにスポットを当てたい。

近年のPGAツアーにおける代表的な“シルバーコレクター”としてまず挙げるべきはキャメロン・ヤングだろう。

2021-22年シーズンにはドライビングディスタンス3位となった長距離ヒッターで、未勝利ながらその年の新人王にも輝いた。しかし彼には、豪快なショットと同じくらい「なかなか勝てない選手」という不名誉なイメージも付きまとってきた。

ヤングの最も印象的な惜敗は、2022年に聖地セントアンドリュースで行われた全英オープンだ。

最終日に18番パー4(356ヤード)でワンオンに成功し劇的なイーグルを奪ったものの、キャメロン・スミスに1打及ばず惜しくも2位に終わった。さらに2022年だけで5度、キャリア全体では7度もの準優勝を重ね、シルバーコレクターとしての印象をファンに強く植え付けてきた。

しかし2025年8月、ついにその時が訪れる。

ウィンダム選手権で22アンダーという圧倒的なスコアを叩き出し、2位に6打差をつける完勝。PGAツアー史上1000人目の初優勝者という節目を飾り、長いトンネルを抜け出した。ヤングの勝利は、積み重ねた銀メダルが決して無駄ではなかったことを証明する瞬間となった。

苦難を乗り越え年間王者を獲得したフリートウッド

イングランド出身のトミー・フリートウッドは、長らく「PGAツアーで勝てない名手」の代名詞だった。PGAツアーでは幾度も優勝にあと一歩届かず、悔しい思いを重ねてきた。

一方で欧州のDPワールドツアーでは通算7勝を挙げ、2017年には年間王者に輝いた。ライダーカップでは欧州代表の中心選手として活躍。2024年パリ五輪では銀メダルを獲得するなど、世界の舞台では輝かしい実績を積み上げてきたが、PGAツアーのタイトルだけは長く手に入らなかった。

その苦闘は数字にも表れている。PGAツアーでは2位が6回、3位が6回、トップ5は30回、トップ10は44回。

1983年以降、未勝利の選手で3位以内に入った回数は最多の12回で、2位のコリン・モンゴメリー(10回)を上回る“不名誉な記録”となっていた。

勝利を収める力は十分にありながら、勝負どころでのわずかな判断ミスや集中力の乱れが、栄光を遠ざけてきた。

特に印象的なのは、2025年のトラベラーズ選手権。1打差の単独トップで最終ホールを迎えたものの、カラーからの3パットで痛恨のボギー。逆にバーディーを奪ったキーガン・ブラッドリーに逆転を許し、惜しくも優勝を逃した。

こうした惜敗の数々は、ファンにとっても本人にとっても長く胸に残る痛みだった。

しかし2025年シーズン、164試合目にしてついにその長いトンネルを抜ける瞬間が訪れる。

プレーオフ最終戦のツアー選手権、最終日を首位タイで迎えたフリートウッドは、トータル18アンダーで逃げ切り、悲願のPGAツアー初優勝を果たした。

しかも初優勝にとどまらず、年間王者の座までもつかみ取り、苦難の日々に終止符を打った。勝利までの道のりは決して平坦ではなかったが、長年の努力と忍耐が結実した瞬間として、ファンの記憶に深く刻まれるだろう。

同じように“光”を見たのが、米シニアツアーのPGAツアーチャンピオンズで戦うオーストラリアのリチャード・グリーンだ。

左利きでコンパクトなトップが印象的なショットメーカーのリチャード・グリーンは、レギュラーツアー時代に欧州ツアーで通算3勝を挙げたものの、米ツアーでは未勝利のままシニア入り。その後も米シニアツアー・PGAツアーチャンピオンズでは勝利に届かず、特に2023年の参戦以降は通算6度の2位に甘んじてきた。

しかし2025年8月のロジャーズチャリティ クラシックで、ついに待望の米シニアツアー初優勝。50歳を超えてなお挑み続けた執念が報われた瞬間だった。

まだ報われぬ名手たち

一方で、いまだ勝利をつかめずにいる選手もいる。2018年からPGAツアーに参戦しているアレックス・ノレンは、DPワールドツアーで通算11勝を誇る技巧派ながら、PGAツアーでは未勝利。2位が3回、3位以内はPGAツアー現役選手最多タイとなる9回を記録しており、実力は折り紙付きだが、あと一歩で優勝を逃し続けている。

2025年8月24日にDPワールドツアー、ベットフレッド・ブリティッシュ・マスターズで約7年ぶりのツアー通算11勝目を挙げて勢いに乗っているので、フェデックスカップ・フォールで念願の初優勝が見られるかもしれない。

韓国のアン・ビョンフンもまた同じ境遇だ。

DPワールドツアーで2勝を挙げながら、2017年にPGAツアーへ参戦して以降は未勝利。安定したショットと堅実なゴルフで2位5回、3位以内はノレンと並ぶ9回を記録しているが、いまだ暗闇の中を歩んでいる。

さらに米シニアツアーのティム・ペトロビックも苦しんでいる。

2005年にPGAツアーで1勝を挙げたものの、シニア入りしてからの9年間は未勝利で、2位は実に11回を数え、そのうち4度はメジャーでの惜敗という苦い記録が残っている。

ゴルフは、わずか一打や一瞬の集中力の差で勝敗が決まる残酷な競技だ。だからこそ、フリートウッドのように苦難を乗り越えた勝利は、単なる優勝以上の重みを持つ。

ノレン、アン・ビョンフン、ペトロビックも、長く積み重ねた“銀”の歴史が、やがて黄金に輝く瞬間を迎えることだろう。

キャメロン・ヤングの飛距離の出し方

念願の初優勝を飾ったキャメロン・ヤングのスイングの特徴は、一瞬止まるように見えるトップ・オブ・スイングだ。そこからダウンスイングに入ると、腰を素早く回転させ、さらに腕のローテーションでクラブヘッドを加速させている。

体の回転だけに頼らず、腕とクラブの動きを連動させることで、大きな飛距離を生み出しているのだ。

アマチュアゴルファーにとって、トップで止まる動きは上半身先行の切り返しにつながるため、真似しないほうがよいだろう。しかし、腰の回転と腕のローテーションをバランスよく使えば、無理に力を入れずともヘッドスピードを高め、飛距離を伸ばすことが可能になる。

まずは素振りでヘッドが走る感覚をつかみ、体の回転と腕の動きを調和させる練習から始めてみてほしい。

動画解説はコチラ

◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。

TEXT=吉田洋一郎

PHOTOGRAPH=ZUMA Press/アフロスポーツ

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