2023年の全米オープンゴルフ選手権の覇者、29歳の飛ばし屋ウィンダム・クラークのドライバー技術をティーチングプロ、吉田洋一郎が解説。
ツアー初優勝の1ヵ月後にメジャー制覇したウィンダム・クラーク
名門ロサンゼルスCCで行われた2023年の全米オープンゴルフ選手権を制したのは、昨年まではほぼ無名の29歳のウィンダム・クラークだった。ローリー・マキロイやリッキー・ファウラーらを抑えての優勝は決してフロックではない。学生時代に有力選手として名を馳せた才能がプロ6年目でようやく開花した。
クラークは高校生時代に「コロラド州選手権」で2回優勝し、オクラホマ州立大学に進んだ後、途中でオレゴン大学に転入するなどしてアマチュア時代から注目を集めていた選手だった。2017年にプロ転向し、PGAツアー下部のコーンフェリーツアーで戦ったあと、2018年からはPGAツアーを主戦場にしている。
しかし、昨年までは目立った活躍もなく、2022年度シーズンの成績はトップ10入りが3回、世界ランク164位、獲得賞金は約154万ドルだった。ちなみに今年の全米オープンの優勝賞金は360万ドル(約5億800万円)で、昨年の彼の獲得賞金の2倍以上だ。
そんなクラークだったが、実は以前からかなりの飛ばし屋として知られ、2022年度のスタッツを見ると平均飛距離は319ヤードで4位。実力はあってもトップ選手として活躍するにはやや安定性に欠け、勝ちきれない選手という印象だった。
ところが、2023年に入って好調な戦いぶりが目に付くようになり、既にトップ10入り回数は7回。5月のウェルズファーゴ選手権では、同年齢のザンダー・シャウフェレを最終日中盤に引き離してツアー初優勝を手にした。そして、それから約1ヵ月後の全米オープンを制し、一気にトップ選手の仲間入りを果たした。
信頼する先輩ファウラーのパターを手に
全米オープンでは3日目にファウラーに並んでトップタイに立ち、最終日は逆転優勝を狙うマキロイとの一騎打ちとなった。最終日は何度かピンチがあったが、アプローチとパッティングでしのぎ、追いすがるマキロイを1打差で振り切った。
この日同組で回ったファウラーは、高校卒業後に最初に入学したオクラホマ州立大の5年先輩。その頃から2人は親交があり、プロになった後もしばしばファウラーはアドバイスを送っていたという。
最終ホールでウイニングパットを決めて号泣するクラークをファウラーは抱きしめ、耳元で「お母さんも誇りに思っていると思うよ」と言ったそうだ。クラークの母親は彼が大学生のときに乳がんで亡くなっており、母の死にショックを受けてゴルフをやめようと考えていた時期もあったという。ウイニングパットを決めた後、クラークが天国の母親に優勝を報告するかのように空を見上げたシーンは心を揺さぶられる場面だった。
実はファウラーとクラークにはもう一つ縁がある。それはクラークの持っているパターがファウラーと同じモデルだということだ。今年初めに2人で一緒に練習をしたときに、ファウラーが持っていたパターを気に入り、その場でメーカーの担当者に「リッキーのパターを僕のために作ってくれないか」と連絡をしたそうだ。「スペックはどうしますか」と聞かれると「リッキーと全く同じで」と答えたという。
実際、そのパターを手にしてからクラークの快進撃が始まり、クラークのプレーを支えてきた。ツアートップクラスの飛距離に「リッキーのパター」を加えたクラークが、どこまで快進撃を続けるか注目したい。
飛距離を伸ばすのに大切な左足の踏み込みと抜重
PGAツアー屈指の飛ばし屋であるクラークのスイングの特徴は、左足の踏み込みだ。ダウンスイングでお尻を突き出すようにして骨盤を前傾させ、左足をしっかり踏み込んでから抜重することで地面反力を効率的に使ってボールを飛ばしている。
今回はクラークのような左足の踏み込みと抜重を身に付けるドリルを紹介しよう。まず、踏み込む動きだが、切り返しで体を沈み込ませながら左足を踏み込み、左腕が地面と平行になるあたりまでクラブを下ろす。この動作を行う際には膝を前に出さないように気をつけ、お尻を引くようにして体を沈み込ませるのがポイントだ。スクワット動作をイメージして行うといいだろう。
「体を沈み込ませると、頭が上下に動きすぎるのではないか」と思う人もいるかもしれないが、体が沈み込んだ後に抜重動作によって元の位置に戻るので問題はない。
踏み込む感覚がつかめたら、次は抜重の感覚を身に付ける練習を行う。左足を踏み込んで左腕が地面と平行になった状態から、左足の力を抜いて力が上に向かうようにイメージをして抜重動作を行う。左足の裏にかけていた力が抜けて膝が伸び、左の腰が切り上がっていくという順番で体を動かすと良いだろう。
この2つの動きを何度か行ってイメージがつかめたら、今度は2つの動きを連動させてみよう。左足を踏み込む動きを3回ほど繰り返した後、そのまま左足を抜重していく。そうすることで、左足の踏み込みと抜重のタイミングがつかめるはずだ。
ぜひ、ダウンスイングで加重と抜重を積極的に行い、クラークのような地面反力を生かしたスイングを身に付けてほしい。
【動画で解説】
■連載【吉田洋一郎の最新ゴルフレッスン】とは……
世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子によるゴルフレッスン。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。