今回は、話題のパッシブトルクの習得について。連載【吉田洋一郎の最新ゴルフレッスン】とは……
スイングに影響を与えるパッシブトルク
ゴルフスイング理論は日々進化していて、さまざまな研究者やコーチによって多くの理論が生み出し続けられているが、最近ではパッシブトルクもその一つだろう。パッシブトルクの「トルク」とは回転やねじれの力のことで、「パッシブ」とは「受動的」という意味。そのため、パッシブトルクは「受動的に発生する回転の力」という意味になる。つまり自分で生み出すのではなく、自然発生的に起きる力のことだ。この回転の力が正しく発生すると、クラブを自然とプレーン上に戻し、フェースを閉じる動きになる。
このパッシブトルクは、カナダの聖フランシス・ザビエル大学教授のサショ・マッケンジー教授がパッシブトルクの研究結果を発表し、欧米のゴルフティーチング界に大きな影響を与えた。マッケンジー教授の研究により、パッシブトルクを活用することでクラブは自然と適切なスイング軌道を描くだけではなく、ヘッドスピードを高め飛距離を伸ばすこともできることがわかった。
パッシブトルクは誰でも知らないうちに発生させているもので、上手に使わないと適切なスイングができないだけではなく、ミスショットの原因にもなる。逆に言えば、パッシブトルクを正しく発生させればスイングの改善は容易にできるということだ。
パッシブトルクはスプリットハンドドリルで身に付ける
アマチュアゴルファーの中には、ダウンスイングでクラブを低い位置から緩やかな角度で下ろす「シャローイング」に取り組んでいる人がいるかもしれない。シャローなダウンスイングに取り組んでいる人は、パッシブトルクとセットでスイング構築を行うと効果が高まる。
ツアープロの中でシャローなダウンスイングの選手といえば、リッキー・ファウラーがいる。ファウラーのスイングはトップの位置が低く、クラブが目標の左を向く「レイドオフ」という状態になる。そこから、シャローにクラブを下ろしてくるのだが、ダウンスイング後半でクラブを立てる方向にパッシブトルクが入る。なぜなら、シャローなダウンスイング軌道のままクラブを寝かせてスイングしてしまうと、振り遅れてしまいプッシュや引っかけの原因となってしまうからだ。
ファウラーは元々バックスイングでクラブをインサイドに引く傾向があり、師事しているブッチ・ハーモンに振り遅れのミスが出ないように指導を受けてきた。スイング中に体と腕のシンクロを崩さないために片手打ちなどを行っているが、それに加えて両手を離して握るスプリットハンドの素振りも行っている。スプリットハンドドリルは体と腕をシンクロさせる練習として知られているが、ファウラーの場合はそれに加えて、振り遅れを防止する目的で行っている。練習場やラウンド中に、右腰のあたりでクラブを立てる動作を確認しながらスプリットハンドで素振りをしている。ファウラーは決して大柄とはいえない体格だが、パッシブトルクを利用してクラブを加速させることで遠くまでボールを飛ばすことができるのだ。
リッキー・ファウラー流のスプリットハンドドリル
ファウラーが取り入れている両手を離したスプリットハンド素振りはシンプルな練習法だ。両手を離す間隔が開くほど難しくなるので、最初はこぶし一個分くらい離すくらいから始め、慣れてきたらグリップの両端を持つくらいにするといいだろう。
両手を離す意味は、それぞれの手の動きや働きをイメージすることにある。ダウンスイング後半で、パッシブトルクによって右手が内旋する一方、左手は外旋し、それによってクラブは立っていく。それぞれの手の役割を意識しながら、感覚を身に付けるために両手を離すというわけだ。
素振りはポジションの確認をした後に一連の流れで行うといいだろう。シャローに下りてきたクラブを、左腕が地面と平行になるあたりからパッシブトルクの動きと連動させてクラブを立たせ、クラブヘッドが少しアウトサイドになるようにしてポジションを確認する。振り遅れる傾向がある人は、少し極端にクラブヘッドをアウトサイドにポジショニングさせてもいいだろう。クラブの位置や動作を確認したら、今度は一連の流れでパッシブトルクが発生するタイミングを感じながら素振りを行う。
右利きゴルファーの場合、右手を使い過ぎると、クラブがアウトサイドから下りすぎてしまう。器用な右手に頼りすぎず、左手を使う意識でクラブを立て、インパクトに向けてボールを投げるようにして右手を解放していくといいだろう。
一連の動きは一瞬の出来事で、実際のスイングでは頭で考えながらスイングする余裕などない。両手を離してゆっくり素振りすることで動作を確認し、イメージを身に付けていくことが大切だ。それによって、スイング中に自然に体が動くようになっていく。
中上級者の中にはダウンスイングで肘を体に引きつけたり、体が目標方向に流れて振り遅れてしまう人がいる。そのような人は振り遅れ解消のために、スプリットハンドドリルでパッシブトルクを使う感覚を身に付けてほしい。スイングが安定し、ボールをより遠くに飛ばせるようになるはずだ。
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