世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム138回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。
スイングの良し悪しに影響するパッシブトルク
ゴルフスイングには自分が加える力以外にも、さまざまな力が影響を与える。たとえば、クラブヘッドは重力によって落下するし、遠心力によってヘッドが加速していく。もしフォロースルーで手を離せば、クラブは目標方向に飛んでいってしまうだろう。そうした自然に発生する力を自分でコントロールすることは難しい。スイングの途中で勢いのついたクラブをぴたりと止めることは至難の業だ。
そうした力の1つに「パッシブトルク」がある。ゴルフメディアで見聞きしたことがあるアマチュアは多いと思うが、正しく意味を理解している人はそう多くはないのではないだろうか。
パッシブトルクの「トルク」とは回転やねじれの力のことで、「パッシブ」とは「受動的」だから、パッシブトルクとは「受動的に発生する回転の力」という意味になる。つまり自分で生み出すのではなく自然発生的に起きる力のことだ。この回転の力が正しく発生すると、クラブを自然とプレーン上に戻し、フェースを閉じてくれる。言葉で説明すると、少し難しいので、「トップレベルのアマチュアやプロと違って、アベレージゴルファーには関係ない」と思っている人も多いかもしれない。
しかし、パッシブトルクは誰でも知らないうちに発生させているもので、上手に使わないと適切なスイングができないだけではなく、ミスショットの原因にもなる。逆に言えば、パッシブトルクを正しく発生させればスイングの改善は容易にできるということだ。スライスが出る人を例にパッシブトルクの働かせ方について説明しよう。
自然と正しい軌道に乗り、フェースが閉じる
アマチュアの打球がスライスになる理由には大きく分けて2つある。1つはスイングのアウトサイドイン軌道と、フェースの開きだ。当然スライスに悩む人は、インサイドアウトの軌道に直そう、インパクトでフェースを閉じよう、などと指導を受けたり、自分で練習に取り組んだりしているはずだ。ところが、いくら努力してもスイングが改善しない場合がある。
そうした人は、パッシブトルクの力がスイングの妨げになっている可能性がある。たとえば、右手を強く使い過ぎる人は、シャフトが立ち、軌道がアウトサイドインになってしまう。このような「スティープ(急角度)」なダウンスイングをすると、そのまま打てば左にボールが飛び出してスライスやプルフックとなる。それを嫌がって、インサイドから打とうとすると、適切ではないパッシブトルクが発生し、クラブが寝てフェースが開いてしまい、スライスが出てしまう。このような状態になってしまうと、クラブが寝た状態を修正するために手を返しても、プルフックなどを誘発してしまう。切り返しでクラブが急角度になった時点で、ミスショットを回避することが難しくなってしまう状況になるのだ。
こうしたスイングの改善に効果的なのが、切り返しでシャフトを寝かせるシャローイングだ。切り返しでシャフトを寝かせると、右手を使い過ぎてシャフトが立ってしまう「スティープ」なダウンスイングとは反対に、ダウンスイング後半でパッシブトルクによってシャフトが立つ方向に力が働き、軌道が適切な方向に戻りながらフェースも閉じていく。ヘッドを加速させながらスイングできるので、ヘッドスピードも高まる。
このようにシャローイングをしながらパッシブトルクを適切に使うために行ってほしい練習方法が、右手1本でドライバーを素振りする練習だ。ダウンスイング初期に右手に力が入ると、シャフトが立ちシャローイングの妨げとなるため、片手の素振りで右手の使い方を改善する必要がある。ドライバーを右手1本で握ったら、ゆったりとしたリズムで素振りをしてみてほしい。切り返しではグリップエンドを飛球線後方に動かし、ヘッドを遠回りさせるように振り下ろしながらシャローにクラブを下す。ダウンスイング後半では、右腕が内旋する動きを行いながらパッシブトルクによってクラブを立たせながらフェースを閉じていく。この練習で、シャローイングやパッシブトルクを感じながらスイングする感覚がわかれば、右手を使いすぎてスティープなダウンスイングになることを防げるはずだ。
少し難しいかもしれないが、体の使い方だけでなく、クラブの動きや力の働き方にも意識を向けてスイングをしてみよう。自分の力だけではなく、クラブの力を利用すればスライスを解消し、安定したスイングを行うことができるようになるだろう。