GOLF

2021.12.18

飛距離と方向性がアップするパッシブトルクとは?──連載「吉田洋一郎の最新ゴルフレッスン」Vol.172【動画解説】

世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム172回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。

【パッシブトルクを理解すればスイングが変わる】

スイングを自力で直すということは簡単なことではない。わかっていてもなかなか治らないことが多く、自分が思っているような理想のスイングに改造することは難しい。そのスイング改造を阻んでいる原因は「パッシブトルク」にあるかもしれない。

ゴルフ好きの人の中には、ゴルフ雑誌やレッスン動画などで「パッシブトルク」という言葉を見聞きしたことがあるかもしれない。しかし、パッシブトルクとはどういうもので、スイングにどのような影響を与えるのかをしっかりと理解している人は少ないのではないだろうか。
※今回は少し難しいテーマのため、パッシブトルクの解説動画も一緒にご紹介しているので、そちらも是非参考にしてほしい。

パッシブトルクをそのまま日本語に訳すと「受動的な回転運動」になる。パッシブは「受動的な」という意味で、誰かが能動的に回転させるのではなく、結果的に自然と発生する回転運動ということだ。このパッシブトルクは、カナダの聖フランシス・ザビエル大学のサショ・マッケンジー教授が「パッシブトルク」の研究結果や概念を発表し、欧米のゴルフティーチング界に大きな影響を与えた。ゴルフにおける「パッシブトルク」はクラブに力を加えた結果、クラブ自体が方向を変えようとする力という意味で使われるが、この目に見えない力を理解し、活用することでクラブは自然と適切なスイング軌道を描くだけではなく、ヘッドスピードを高め飛距離を伸ばすこともできることがわかった。

このようにメリットの多いパッシブトルクだが、使い方を間違えるとスイングに好ましくない影響が出る。特にカットスライサーがダウンスイングでシャフトを立ててクラブを急角度で下ろす際、パッシブトルクが適切なスイング動作を阻害してしまう。カット軌道でそのままアウトサイド・インに振れば問題ないのだが、ボールは左へ飛び出してしまう。その動きを補正しようとすると、今度はクラブをインサイドから下ろそうとするのだが、この時にパッシブトルクが働き、振り遅れが生じてフェースが開くため、適切なスイング軌道に戻すことが難しくなる。この動きは初心者だけに多いと思われがちだが、中上級者でも多く見られる。特にドライバーショットなど長いクラブの球筋が安定しないゴルファーはこのような傾向がみられる。

【パッシブトルクによって飛距離と方向性がアップする】

スイング中に発生するパッシブトルクの具体的な動き、特にダウンスイングでパッシブトルクが発生する2つのパターンを説明していこう。1つめは、ダウンスイング初期に寝ていたクラブが、ダウンスイング後半でクラブが立ちながら、自分から見てクラブが反時計回りに下りてくる動きだ。
もう一つは、ダウンスイング初期にクラブが立ちながら下り、ダウンスイング後半でクラブが寝て、自分から見て時計回りにクラブ動いてインパクトをむかえる動きになる。

ゴルフクラブは力の向きに対して重なり合うように動いていく性質がある。ダウンスイングでクラブが寝ていた場合、力の向きに近づくように、徐々にシャフトが立っていき、フェースも閉じていく。これは意識的にクラブを操作するものではなく、スイングの中で自然に起きる動きだ。だから、ダウンスイング初期に適切な位置からクラブを振り下ろしさえすれば、後はパッシブトルクによって、クラブは理想的なスイング軌道を描くことになる。それによってクラブヘッドのスピードも高まり、ボールもつかまりやすくなる。

逆にダウンスイング初期にシャフトが立って下りてくると、ここでもパッシブトルクが発生し、ダウンスイング後半でクラブが寝てしまう。その結果、クラブは振り遅れてフェースが開いてしまうのだが、この状態からだとインパクトでアジャストするのが精いっぱいになり、ボールが右や左に曲がって球筋は安定しない。

パッシブトルクは腕の動きにも影響を与える。ダウンスイングでクラブが寝て下りてくると、ダウンスイング後半ではパッシブトルクの動きと連動して腕を内側に向かって回転させやすくなる。サイドスローでボールを投げるように、自然と腕を内側にローテーションさせる動きを行うことができるので、加速しながらクラブを振ることができるし、クラブフェースも閉じやすくなるので、つかまったボールを打つことができる。

一方、クラブを立てて振り下ろそうとすると、ダウンスイング後半でパッシブトルクにより腕を外旋させる動きが入るため、減速しながら下ろすことになり、フェースも開きやすくなる。インパクト周辺でアジャストしてまっすぐ飛ばすこともできるが、結局、無駄な動きが生じることになり、飛距離と方向性を欠いてしまう。

パッシブトルクを感じるために、片手でクラブを振ってみてほしい。まずは右手でドライバーなど長めのクラブを持って、ダウンスイング初期にクラブを寝かせた状態から、インパクトに向けてクラブを加速させながら振ってみる。クラブの重みを感じながら、外旋していた右腕が自然と内旋しながらリリースされるフィーリングを感じてほしい。ダウンスイング後半で徐々にクラブが立って、フェースが閉じていく感覚や、クラブが勝手に加速していく感じが出ていればパッシブトルクを使えている状態だ。

逆にダウンスイング初期にクラブを立てて下ろすと、まっすぐ飛ばすために腕の力を必要以上に使い、ぎこちない動きになる。違いを感じるために一度試してみるといいかもしれない。

パッシブトルクをうまく活用することで、スイングは効率的で安定したものとなる。難しい理屈は分からないし、言葉が難しく敬遠したくなるかもしれない。しかし、パッシブトルクを理解することで、自分のスイングの特徴や欠点も理解しやすくなるので、知っていて損はしない。

TEXT=吉田洋一郎

PHOTOGRAPH=小林 司

COOPERATION=取手桜が丘ゴルフクラブ

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