世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム142回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。
脱・オーバースイング!
ゴルファーは様々なスイングの悩みを抱えているが、大きすぎるバックスイング「オーバースイング」を解消したいと思っている人は多い。ジョン・デイリーや横峯さくらといったオーバースイングで活躍したプロもいるが、それらの個性的なスイングをアマチュアが参考にするのは難しいだろう。一般的に、オーバースイングになると大きく振り上げたクラブを毎回同じように振り戻すのは難しく、スイングの再現性が低下し、ボールの方向性が安定しなくなる。スコアに直結する問題だけではなく、見た目もカッコいいとは言えないため、オーバースイングを解消してコンパクトなトップにしたいと願うゴルファーは多いだろう。
PGAツアーでコンパクトトップの選手といえば、トニー・フィナウが思い浮かぶ。ドライバーショットでシャフトが地面と平行になる前にトップ・オブ・スイングに到達するほどコンパクトなスイングだ。まるでアイアンのコントロールショットのようなトップ・オブ・スイングにも関わらず、平均309.8ヤード(PGAツアー13位)の飛距離を誇る。193センチ・91キロと恵まれた体格のフィナウは、フルスイングをすれば400ヤード近く飛ばすことができるが、コンパクトなトップにすることで常時300ヤードの「飛んで曲がらないスイング」を実現している。
日本人選手でも、渋野日向子のスイングが今年に入ってコンパクトになったと話題になっている。ブライソン・デシャンボーの驚異的な飛距離がゴルフ界の話題をさらっているが、渋野はコンパクトトップを採用することで飛距離よりも正確性を重視したプレースタイルに挑戦している。ツアープロでもトップをコンパクトにすることで飛距離が落ちるというデメリットがあるが、スイングの再現性とボールのコントロールを向上させるメリットを享受することができる。
コンパクトトップに必要な2つのポイント
コンパクトなトップを作る際の重要なポイントは2つある。それは「体と腕のシンクロ」と「切り返しのタイミング」だ。
コンパクトトップにするために欠かせないポイントは、「腕を振らないこと」だ。腕を振らなければスイングできないと思っているゴルファーは多い。たしかにスイング動作では腕は動いているが、「能動的に腕を振る」のではなく、腕は胴体の動きによって、「受動的に振られている」状態にすることが大事だ。腕を能動的に振る「手打ちスイング」では、体と腕の同調性が崩れオーバースイングになりやすい。腕が自由に動きすぎる手打ちスイング状態では、トップを小さくしようと思っても、腕や手先で振り幅のコントロールをすることは難しく、トップの位置は今までとほとんど変わらないだろう。また、腕を振ること以外にクラブを振るための原動力がないため、腕の振りを小さくするだけでは飛距離が出なくなってしまう。
オーバースイングを解消し、コンパクトなトップにするために、両肘と胸でできる空間を変えない「体と腕が同調した状態」にすることが重要になる。体と腕がシンクロした状態では、胸郭の可動範囲でしか腕を動かすことができないため、必然的にトップの位置は小さくなる。
オーバースイングの場合、特に右腕が動きすぎるケースがよくみられる。右脇が開き、クラブを担ぎ上げるような形になっている人は、右脇をしっかり締めて体の動きと腕をしっかりシンクロさせるといいだろう。右脇にヘッドカバーなどを挟み、右肘がほとんど体から離れないイメージを持つといい。実際には右肘は自然と離れてしまうのだが、右肘が常に下を向いているように心掛けてほしい。
コンパクトなトップをつくるのにもう一つ大切なのが、切り返しのタイミングだ。クラブがトップ・オブ・スイングに到達してから切り返しの動きを始めても、勢いのついたクラブは急に止まらないため、結果としてオーバースイングになってしまう。
トップをコンパクトにするには、早めのタイミングで切り返しを行う必要がある。バックスイングを上げている最中に下半身の動きをスタートさせるのだ。バックスイングで左腕が地面と平行になったあたりから下半身の動きで切り返しを始めると、上がっていくクラブの勢いと下半身の踏み込む力が拮抗し、上半身と下半身が引っ張り合うように作用することで、トップがコンパクトな位置におさまる。
下半身を使って切り返すことで、飛距離アップのメリットもある。切り返しで左足をしっかり踏み込むことで、地面反力が発生し体の回転スピードを上げることができるので、トップが小さくなっても飛距離を出すことができる。バックスイングを上げている最中に左足を一歩目標方向に踏み込むステップドリルや、バックスイングで左足かかとを上げ、切り返しのタイミングで左足かかとを踏み込むヒールアップドリルなどを行って、左足の動きと踏み込むタイミングを身につけてほしい。この動きを行うことで、手先で作った形だけのコンパクトトップではなく、全身を使った「飛んで曲がらない」コンパクトトップのスイングができるようになる。
コンパクトなトップは飛距離よりも正確性を重視したいゴルファーに向いている。筋力があり、飛距離よりも方向性を重視したいというゴルファーは試す価値があるだろう。自分の体力や目指すプレースタイルなどを見極めたうえで、トップの大きさを決めてほしい。