連載「I Don’t WEAR Jewelry. I WEAR Art」。今回は、ジュエリーを通じた自己表現を教えてくれる「シャネル」。
シンプルなデザインは、すなわち強い想いゆえ
ここ数年でジュエリーにおけるジェンダーの壁はなくなった。いや、そもそもジュエリーにおいてジェンダーという概念はあったのか。「ココ クラッシュ」を見ると、そう思えてくる。
1920年の初登場以来、馬具からインスピレーションを得たシャネルを象徴するキルティングモチーフは、多くの女性を魅了してきた。デザインは実にシンプルで、いくつものスクエアが連なる。リングは艶やかな質感と相まって一見するとやわらかな印象を受けるが、一方でモードな空気も感じ取れる。それもそのはず、このコレクションは既成概念に縛られた女性の解放を願い、型破りであるマドモアゼルのスピリットを継承しているのだから。
意匠に込められたストーリーが、人をより魅了する
その名は「スール シーニュ デュ リオン」。リオンとは獅子を指し、獅子座のマドモアゼル シャネルのシンボルである。18Kイエローゴールドで形作られたライオンにはいくつものダイヤモンドがセットされ、シンボル性をより強調する。
最愛の人を亡くし失意のなか訪れたヴェネチアで、多くの建物や石像に飾られた獅子はマドモアゼルを勇気づけたとか。雄々しき造形の裏側にある悲哀を含んだエピソード。ともするとジュエリーが人々を魅了するのは、デザインの裏側にそうした背景を無意識に感じ取っているからかもしれない。写真上で身につける「シャネル N°5」のネックレスも然り、そこにどんな意味があるのかを想像させる。そして、こんなインディゴブルーのデニムにあしらう人は、どんな人なのだろうと。
■連載「I Don’t WEAR Jewelry. I WEAR Art」とは……
時にファッションとして、時にシンボルとして、またはアートに……。ジュエリーを身につける理由は、実にさまざまだ。だが、そのどれもがアイデンティティの表明であり、身につけた日々は、つまり人生の足跡。そんな価値あるジュエリーを紹介する。