今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、ウェイン・ショーターの『Live at the Detroit Jazz Festival』。
レジェンドが描く幻想的な音物語が脳内で展開する
2023年3月に89歳で永眠したウェイン・ショーターが、2017年にカルテットで演奏したライヴ音源。ベースと歌はエスペランサ・スポルディング。レジェンドのDNAを次世代に継ぐパフォーマンスが聴ける。
幻想的で映像的な音の空間で紡がれるウェインの音楽物語。まぶたを閉じると、4人の演奏なのに、スケールの大きな景色が脳内に繰り広げられる。
ハリウッドのサウンド・シティで暮らしていたウェインを訪ねたことがある。仕事部屋のラックには映画のソフトがびっしり。10代の頃は映画作家になりたかったという。しかし、当時の映画界は黒人には狭き門だった。ならば音で映像を描きたいと、サックスを手にしたそうだ。
19世紀にベルギー人のアドルフ・サックスが、ひとつの楽器でオーケストラのような映像的で厚みを感じる響きを表現したくて生みだしたのがサックス。そんな楽器の生みの親の願いをジャズのフィールドで実現させた音楽家がウェイン。そして楽器の持つ特性が存分に発揮されたのが、このアルバムの「サムプレイス・コールド“ホエア”」であり、「ミッドナイト・イン・カルロッタズ・ヘア」だろう。
聴くたびに、新しい風景が脳のなかで展開する。
Kazunori Kodate
音楽ライター。『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』『25人の偉大なジャズメンが語る名言・名盤・名演奏』など著書多数。『不道徳ロック講座』(新潮新書)が今話題。