今回は2023年8月11日公開の『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
オタクであり、天才であり、狂人。映画に人生を賭けた男の生き様
クエンティン・タランティーノ(QT)も今年で還暦なんですってよ! かねてから10本撮ったら引退と明言しており、残すところあと1本……。
日本のヤクザ映画やアクション時代劇が大好きで、深作欣二やソニー千葉の魅力を全米で広めたのは有名な話。あと1本に滝藤が滑りこむスペースはないものか。うおー! 1㎜の可能性も感じねえ!!(涙)。ガキの頃から『キリング・ゾーイ』『トゥルー・ロマンス』などQT関連の作品に多大な影響を受けた滝藤。QTのドキュメンタリー映画、観ないわけには参りませぬ。
レンタルビデオ店の店員だったQT。古今東西のギャング映画を観まくり、手がけた作品は死ぬか生き残るかの運命の分岐点までの時間を見事な会話劇で見せていく。『レザボア・ドッグス』も『パルプ・フィクション』もセリフのやり取りが抜群で、当時から映画を観まくっていた高校生・滝藤は“時代が変わった!”“オレが生きたいのはこの世界だ!”と痺れたものです。
この男がまた格好いいのは、『サタデー・ナイト・フィーバー』の一発屋で終わりかけていたジョン・トラボルタを、『パルプ・フィクション』のスーパークールなギャング、ヴィンセント・ベガで復活させたこと。言い方は悪いが、落ち目だった俳優を自身の作品でもう一度輝かせるそのセンスに、とてつもない魅力を感じる。
とはいえ、どんな人も完璧な人生ではない。成功を収めたQTにも黒歴史はある。アメリカ映画産業界を揺るがした#MeToo事件の発端となり、多くの女優、スタッフにハラスメントをしたプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインに厳しく意見できなかった事実は、彼のキャリアに刺さった棘のように感じました。
勝新太郎さんや三國連太郎さんもそうだが、一流の俳優の裏話はめちゃくちゃ面白い。滝藤もこんなドキュメンタリーを作ってもらえるような伝説を残せたら、“我が俳優生涯に一片の悔いなし!!”と天に拳を突き上げ、この世を去ることができるのだろう。と夢見て爪痕を残そうと日々探っております(笑)。
『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』
1992年、脚本・出演・監督を務めたギャング映画『レザボア・ドッグス』で、カンヌ国際映画祭に旋風を起こし、一夜で時の人となったクエンティン・タランティーノ。切れ味いい会話劇、マイノリティや負け犬に愛を注ぐ独自の視点など、時代を作った男のパーソナリティに迫るドキュメンタリー。
2019/アメリカ
監督:タラ・ウッド
出演:ゾーイ・ベル、ブルース・ダーンほか
配給:ショウゲート
2023年8月11日よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国公開
https://qt-movie.jp/index.html
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。俳優の仕事の傍ら、さまざまなアルバイトを経験。QTと同じくレンタルビデオ店でも働いていたという。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!