役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
対立する国同士の壁
早いもので2019年も終わりに近づいています。皆さまも年度末に向けて、やり残したことを回収されている頃でしょうか? 不惑の40代を驀進中の滝藤は、相も変わらず政治も経済もよくわからず、人生迷いっぱなし。そんなわけで、同じような状況にいる中年男のドラマを見ると、えらくシンパシーを抱いてしまいます。
今回ご紹介する『テルアビブ・オン・ファイア』は、滝藤がイマイチ理解していないイスラエルの政情を扱った作品。
人気テレビドラマ制作の裏側を描いている今作。只今、1月クールのドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』を絶賛撮影中の滝藤にとって身近なテーマです。なぜなら、このドラマは古舘寛治さんと私から始まった企画だから……。初めて打ち合わせに参加し、ドラマがどのように作られていくのかを知るのは、とても刺激的でした。おっと『コタキ兄弟』の宣伝をしてる場合じゃなかった!本題、本題。
主人公サラームはイスラエルの首都エルサレムに暮らすパレスチナ人。パレスチナ制作の女スパイドラマの仕事についたばかり。彼にとって厄介なのが、実質的なパレスチナ政府があるラマッラーという町の撮影場所に行くために、毎朝夕、イスラエル軍の検問所を通らなければならないこと。そんなある日、イスラエル軍司令官アッシに目をつけられます。言い逃れるため咄嗟にドラマの脚本家だと嘘をつくと、内容をイスラエル寄りに変えろと詰め寄られ……。
この映画を観て思いだしたのが三谷幸喜さんの戯曲『笑の大学』。西村まさ彦さん演じる検閲官が近藤芳正さん演じる脚本家の台本を検閲しているうちに、いつしかその創作に夢中になっていくという物語。これ最高です! おっと三谷さんの宣伝してる場合でもなかった!
『テルアビブ・オン・ファイア』
監督は1975年生まれのイスラエル出身のパレスチナ人。イスラエル・パレスチナ間の政情の緊張を逆手に取り、人気ドラマの結末を巡る、脚本家と軍人のオフビートのコメディを作り上げた。本年度アカデミー国際長編映画賞(旧:アカデミー外国語映画賞)のルクセンブルクの代表作に選出された。
2018/ルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー
監督:サメフ・ゾアビ
出演:カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバルほか
配給:アット エンタテインメント
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中