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2021.11.23

【試乗】さらば情熱のアルファロメオよ。終焉を迎える小さなスーパーカー「アルファロメオ4C」

歴史ある名車の"今"と"昔"、自動車ブランド最新事情、いま手に入れるべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!

本国で生産終了

一台のアルファロメオが、その歴史に幕を下ろそうとしている。それが小さなスーパーカー「アルファロメオ4C」だ。残念ながら、日本での販売は終了済みだが、本国での生産がフィナーレを迎えようとしている。

アグレッシブなスタイリングは、1967年に発表されたアルファロメオの伝説的ロードカー「ティーポ33/2 ストラダーレ」をモチーフとしている。そのクルマは、レーシングカーである「ティーポ33」をベースに誕生したロードカーだったのだ。なんとも過激な、乗り手を選ぶクルマだったに違いない。もちろん、4Cは純粋なロードカーとして企画されたものだが、この2台のロードカーにはデザイン以外にも共通項がある。それは最新技術を惜しみなく投入し、純粋に走る喜びを追求していることだ。

特筆すべきはモノコックボディが、なんとフルカーボン製となり、そのボディシャルの生産にはレーシングカーコンストラクターの名門「ダラーラ」が担うことだ。素材や技術の面で、モータースポーツにも所縁があるといえる。特殊な少量生産車でもあるため、当然、車両の製造工程はハンドメイド。そこでグループ企業であるマセラティに協力を仰ぎ、マセラティの職人たちの手で仕上げられている。まさにビッグネームが集ったオールイタリアの逸品というわけだ。

このクルマの最大の価値である純粋な走りへの追求のひとつが、徹底した軽量化だ。カーボンシェルとアルミニウム製サブフレームの組み合わせ。ボディパネルは、低密度SMC(ガラス繊維強化樹脂)製とし、ボディサイズも全長3990mm×全幅1870mm×全高1185mmとコンパクトなものに。

日本の法規上での車両重量は、1060kg(スパイダー)となるが、本国発表による乾燥重量は950kgしかないので、実質的にはマツダのロードスターと同等クラスと考えてよいだろう。

エンジンは、2名乗りキャビンの後方に配置されたミッドシップレイアウトで、後輪だけを駆動する。搭載されるのは、1750㏄の4気筒直噴ターボエンジンで、他のアルファロメオにも搭載されるものだが、これにチューニングを加え、最高出力240ps/6000rpm、最大トルク350Nm/2100~4000rpmを発揮。トランスミッションには、6速デュアルクラッチトランスミッションであるアルファTCTを備える。世間ではオートマ扱いされるものだが、6速MTベースのトランスミッションなので、自動変速してくれるマニュアルと考えれば良い。オートマ走行も可能だが、パドルによるマニュアルシフトも行える。

サスペンションにはレーシングカー由来の技術を採用。ブレーキシステムには、イタリアの名門ブレーキメーカーである「ブレンボ」を装着しており、サーキット走行にも耐えうるものとしている。ちなみに、ダイレクトな操作感を優先し、パワステもない。

マセラティ工場製という側面もあり、高品質なクルマである4Cだが、豪華装備とは無縁だ。エアコンやオーディオ、パワーウィンドウなど常識的な装備こそあるが、ベースで865万円という価格から想像できる装備はない。でも、それで良い。邪念ともいえる快適装備は、折角の軽量化をスポイルするだけでしかない。さらにいえば、最小限ともいえるボディサイズと空力デザインの結果、荷物入れは車内でも最小限。リヤのトランクこそあるが、あまり大きくはない。4Cスパイダーだと、ソフトトップの着脱ができるため、その収納にトランクを使用する。そうなれば、ちょっとした買い物さえ、収めるのは助手席しかなくなってしまう。そんなことを気にする人は選んではいけないクルマなのだ。もっとも、そういうタイプの人は候補にも挙げないだろうが……。

運転席に収まるのにも、少しコツがいる。高いサイドシルを乗り越えるためには、シートにお尻を落としてから、両足を収めなくてはならないからだ。そのため、駐車場ではある程度のドア開閉スペースが欲しくなる。なので、移動先の駐車場選びも重要。さらにいえば、車高も低いので段差にも気を配らなくてはいけない。少しネガティブともいえる話題を続けたが、これらが問題にならないなら、残りは幸せだけだ。

快適さを生む車重の軽さ

エンジンパワーは240ps/350Nmと至って普通だが、それを動かすクルマは、たった1tしかない。それゆえアクセルを少し踏み込むだけで、元気な加速が得られる。パワステなしでも、クルマが軽い上、重量のあるエンジンも前にないため、停車時の据え切りが必要なシーン以外は、全く問題にならない。ダイレクトに路面の反応がある分、常にステアリングを正しく保持する必要はあるが、それもクルマとの対話を高めるエッセンスでもある。サスペンションは硬めだが、車重が軽いので、段差などの衝撃も少なく、想像するよりもずっと快適なのだ。

嬉しい誤算は、TCTの賢さだ。自動変速と手動変速を切り替えられるのだが、自動変速モードでも、積極的なシフトダウンを行ってくれるので、常に欲しい加速が得られ、それが快感へと繋がる。この辺も走りを楽しむアルファのDNAがしっかりと息づいているなと感じた。今回の試乗は、街中での移動が多かったものの、コンパクトなサイズにも助けられ、楽しい時間を提供してくれた。一緒に過ごした間には、ちょっとしたエピソードも生まれた。4Cスパイダーを駐車していた際に、近所の小さな男の子が通りすがりに「カッコイイクルマ」と言ってくれた。色々なクルマに触れる機会があるが、偶然にも「カッコイイクルマ」と言われたことがあるのは、アルファロメオだけである。アルファのスポーツカーには、そんな人の本能に訴えるものがあるのだろう。

時代の流れもあり、古典的な魅力を持つ軽量なスポーツカーを作り続けることが難しくなってきた。クルマ好きの言い分としては、少量生産のスポーツカーくらい見逃して欲しいと言いたいのが本音。今回の4C生産終了には、マセラティが新たな電動化SUVの生産が始まることも関係しているので、仕方ない面もあるのだが……。もちろん、電動化は、我々に色々な革新をもたらすことは間違いない。ただ軽さを楽しむクルマを実現するのは難しいのが現状だ。それだけに、4Cのようなライトウェイトなクルマが消えていくことには、特に寂しさを感じてしまう。おそらく、こんなアルファロメオは出てこないだろう。最後にドライブに連れ出せて本当に良かった。

TEXT=大音安弘

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