スーパーカーに快適性や利便性も追求したのが「マクラーレンGT」である。レーストラックでの戦闘力を最大限発揮する一方、快適に移動を楽しむGT性能にもさらなる磨きがかかった。そんなマクラーレンGTを駆って、日本有数の温泉地・熱海を目的地とした1泊2日のショートツーリングへ出かけた。
マクラーレンの考える新たなGT
F1直系の超高性能車を市販投入するマクラーレンが“GT”を独自に新解釈。それが「マクラーレンGT」である。そもそも高性能の証として用いられるGT(=グランドツーリング)とは、かつて若き英貴族が見聞を広めるためにヨーロッパ大陸を文字どおり大陸移動する際に乗るクルマだった。
英国製GTとはつまり、ロングドライブに長けた快適性を持つ高性能モデルのこと。
その点、このマクラーレンGTはブランドの頂点を極めるハイパースポーツシリーズのアルティメット(限定生産のミリオンプライス)と同じDNAを持ち、快適性とエアロダイナミクスを追求。スポーツカーの俊敏性とロングドライブ性能をかけ合わせた、まったく新しい第4のシリーズとして加わった。
最大の特徴はエンジンの真上にゴルフバッグやスキー板など長尺物も搭載できる420ℓの荷室容量を備えている点にある。ミッドシップスーパーカーにもかかわらず、大人ふたりがツーリングに出かけられるユーティリティを持ち合わせるのだ。
マクラーレンのトラックマシンと共通の設計思想が随所に息づく。心臓部には620ps/630Nmを誇るV8ツインターボをミッドシップマウント。低回転域からパワーを盛り上げるターボラグの少ないエンジンから生まれる力は余裕そのもの。怒涛の加速が味わえるものの、節度ある大人らしさが印象的だ。
注目すべきは、GT性能を大幅に向上させるプロアクティブ・ダンピング・コントロール・システムの搭載により、優れた乗り心地を実現しているということ。その乗り味は終始スポーツサルーン顔負けの滑らかさ。全方位視界がよいというマクラーレンの美点も相まって都心を流しても扱いづらさは皆無で、快走路を飛ばしても至極快適。それは起伏の激しい峠道でも同じ。鼻歌交じりでタイトコーナーを走れるほど軽快な身のこなしを見せつけた。
一方、ドライブモードを「S(スポーツ)」にすればクルマの挙動はすぐさま豹変。右足の動きに呼応するよう荒々しく野太いノートが深く身体を煽り立てる。片道100㎞のツーリングでは疲れ知らずで、まだまだ走り続けたくなるほどだった。
温泉地・熱海を目的地とした1泊2日のショートツーリングなんてあっという間。ツアラーとしても活躍できる洗練された乗り味に、これでサーキットも走れるという懐の深さに魅力を感じた。刺激的なマクラーレンGTの走りを楽しんだあとは、THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS熱海で宿泊。“泊まる”だけでなく“食べる”ことにもこだわった“滞在するレストラン”では、贅沢な熱海の幸と良質の湯に癒やされる。
“最幸の移動”を体現する
流麗で伸びやかなプロポーションを持つマクラーレンGT。アイデンティティである上方に開くディヘドラルドアを採用し、乗降時の存在感を際立たせる。他のマクラーレン同様、車体骨格には軽量かつ高剛性なカーボンセルで構成。そのマシンづくりはGTといえども変わらない。
コンフォータブルにも、はたまた潑剌(はつらつ)としたレーシーな走りにも。ハレとケを行き来できるこんなスーパーカーは今まであっただろうか?
“最幸の移動”を体現するのがマクラーレンGTの真骨頂。エグゼクティブのガレージに加えたい1台だ。