2023年秋、立教開宗1200年を迎える東寺に奉納するために、現代アーティストの小松美羽が曼荼羅を描いた。ゲーテは、毎朝瞑想をし、祈りをこめながら描く小松に密着。完成間近! 佳境を迎える小松に作品に込めた想いを聞いた。
広がり続ける表現の幅
小松美羽の作品というと、学生時代に描いた『生死』や『輪廻』、『四十九日』などモノトーンの作品を思い浮かべる人もいるだろう。だが、その後は黒と白をベースにしながらも、多くの色を取り入れ、表現の幅を広げてきた。
「黒と白は学生時代から大切にしている色です。黒と白で、生と死であったり、陰陽であったり、対局でありながらも、最終的には結びついて調和するものを描いてきました。今回も、黒がベースになっています。そこにいろんな色が合わさって、異なるように見えるけれど、それらが混ざり合っていくことを表現しています」
色を大胆に取り入れるきっかけになったのは、出雲大社に奉納した『新・風土記』を制作していたときのこと。祈りの色が天に昇っていくのが見えたことから、色を使うことで人々の祈りを表現している。
今回の曼荼羅にも色を散りばめるとともに、聖書の中に登場する虹のような美しい色を描きだしたい思いもあったそうだ。金色を大胆に取り入れたのは、曼荼羅のポイントになる色だから。金色の部分だけはデザインを先行させて位置を決め、事前に金沢の金箔を取り扱う会社に依頼して貼ってもらったという。
試練を経て進化する作品
ところで、飛鷹長者がおっしゃる小松美羽の中の霊性や、神仏とさまざまな宗教をひとつと捉える宗教観は、どのようにして芽生え育まれたのか。彼女に問うてみると、幼い頃からの経験も大きいと言う。
「ひとつには、母の存在があると思います。神聖なものに分け隔てなく興味を持ち、学ぶ人でした。近所の教会や神社など、どこにでもすっと入っていくんです。そして、どこに行っても手を合わせて祈る。そんな母と共に過ごすと、私にとっても祈ることは当たり前のことになっていきました。仏壇があれば手を合わせるし、水を変えて花を飾る。母によく言われたのは、人はみな同じだということ。家の近くに外国人の方が住んでいらしたんですが、母は親しくお付き合いしていました。彼らが、どんな宗教を信仰していてもそれは関係ない、というか同じだと言っていました。想像ですが、空海さまも唐に渡られ、多くの異教の霊性に触れて学んだのではないでしょうか」
小松自身は、7年ほど前からユダヤ教を学んでいるそうだ。2011年の東日本大震災の後に、ユダヤ思想研究家の手島佑郎氏に出会い、その愛ある言葉に感銘を受け、教えを請うた。
「手島先生には、ユダヤ教の観点やキリスト教の観点など多くのことをお教えいただいています。そのおかげで、人もモノもいろんな角度から見ることができるようになりましたし、私の在り方の原点になっています。人としての大切なことをお教えくださる手島先生は、最も尊敬する方のひとりであるとともに、私を祈りの世界に導いてくださる方です」
宗教の分け隔てなく色々な聖地で「平和への祈りを込めてライブイベントをしたい」想いがあるという。彼女にとって、アートは表現することであるとともに祈りでもある。では、表現することに、小松はどんな想いを込めているのか。
「美術もそうですし、音楽も同じ。何かをクリエイトすることは神聖なことだと思っています。私が生を受けて死んでいくなかで、魂を成長させるために与えられた使命が、描くことなんです。私が生み出すアートが、誰かの魂に響き、癒す薬であってほしい。そんな役割を果たすために、私は表現しているんだと思います」
彼女の言葉は明確で揺らぎがない。すべての活動が、自分のためではなく誰かのため、多くの人の幸せのため、そして世界の平和のためだと言い切る。制作中の曼荼羅にも、もちろんそのような想いが込められている。
「この場所で、祈りを込めて描くことは、宇宙にある色々なものを抽象的に落とし込むことでもあります。曼荼羅のなかに、まるで宇宙を俯瞰して見るような景色が広がります。見る方がそこに共感してくだされば嬉しいですね。私なりの曼荼羅を描くことで、世界中の多くの人たちの魂がつながればと思います」
この作品は、2022年6月25日から「岡本太郎美術館」で展示された後、2023年の東寺法要で、表装されたものが公開される。休みがあれば、山にはいって自然に触れるという小松。今後も、神社やお寺、教会などさまざまな場所にいって制作やライブイベントを行いたいと言う。
「これからも各国へ行くことがあると思いますが、東寺で得た学びを自分のものにして、今後の展覧会などで発表できればと思います。小さな作品も大きな作品も制作し続けなければいけません。そして、また何かの機会にお声がけいただいたときのために、すぐに描ける準備をしておきたいと思っています」
試練を与えられるごとに大きくなる彼女の作品は、まさに祈り。魅力に満ちたその力に私たちは引き寄せられ、心動かされるのだ。
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