デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vo.17。自分の時間が取り戻せる空間でゆったりと過ごすことはクオリティの高いアウトプットへとつながると話す森田恭通氏。心身を癒やし、気持ちを鼓舞してくれるリゾートとは?
上質なインプットを与える、センスのいいリゾート
オリンピック、パラリンピックが続き、そこに猛暑、ワクチン接種。日本中がザワザワし、疲弊している人が多いのではないでしょうか。海外との行き来も少しずつ増えていますが、気軽に海外旅行というのはまだ遠い。少しだけ逃避したい、リゾートに行きたいと、僕の妄想も膨らむばかりです。
過去に訪れたリゾートで印象に残っているのは、以前、タイのプーケットにあったシックスセンシズ・デスティネーション・スパ・プーケットです。飛行機や船を乗り継いで到着すると、すぐさまチェックインとカウンセリング。滞在中のトリートメントからヨガなどのプログラム内容と日程をすべて決めていきます。リゾートウェアに着替えたら、心と身体を整えるプログラムを受け、あとはのんびり自分の時間を過ごす。食事は、リゾート内にオーガニックファームがあり、それらを使ったヘルシーな料理。ひとりで滞在する人もいて、すべてが非日常。気づいたら、不思議なほど仕事が頭から離れていました。
常に仕事に追われていると気づかないうちにパフォーマンスが下がってきます。そんな時、刺激となるのが旅です。自分がいる場所を変えることで、新しい環境からさまざまなことをインプットでき、日常に戻ったら仕事やプライベートにアウトプットして反映させる。それが理想の休暇ではないでしょうか。
大自然のなか、ひっそりとプライベート感溢れる滞在。はたまた、都会のなかでその土地の文化を感じられる場所で唯一無二の体験をする。リゾートは過ごす人の好みによってさまざまですが、旅をすることは自分の日常を客観視することにもつながります。
僕は仕事柄、ホテルのライティングなどのディテールが気になり、頭に仕事のスイッチがつい入ってしまうのですが、ホテルのセンスとは、建築、インテリア、調度品、スタッフのサービスや料理、さらに照明にいたるまでの総合点だと考えています。その面で印象に残っているのは、海外ではブラジルのファザーノ家が手がけるホテル。サンパウロやリオ・デ・ジャネイロで利用しましたが、立地、スタッフ、インテリアのすべてにおいて素晴らしいものでした。また国内では新しい船旅を提供してくれた、瀬戸内に浮かぶ名旅館と呼ばれる「guntû」。視界にはずっと海と島が見え、しかもその景色は常に変わります。露天風呂に入り、夕暮れ時の食事の際には、「夕陽が綺麗ですよ」と船を回転させてくれる。こんな贅沢は他にあるでしょうか。京都に開業した「HOTEL THE MITSUI KYOTO」も地下の温泉施設を含め、上質なものでした。
またラグジュアリーリゾートホテルといえばLVMHの「シュヴァル・ブラン」がありますが、パリで9月7日に開業予定の初の都市型ホテルは、建築家のピーター・マリノがデザインと聞き楽しみにしています。
自然と一体になり、心身を癒やしてくれるリゾート。つい働きづめの毎日を過ごしてしまいがちですが、一度仕事から離れて、リゾートに逃避することは、きっとパフォーマンスをあげることにもつながるはずです。僕自身も皆さんの活力になるようなリゾートをいつかデザインしてみたいですね。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍し、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける。その傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」はこちら。